梗 概
二刀流の葬送曲(レクイエム)
2060年代。野球は、バイオメカニクスとAIによって完全に管理されたスポーツへと変貌していた。
元二刀流の名選手であり、ベースボールトレーニー会社「ショウ&ロッペイ」の技術フェローを務める谷山正一は、あらゆるタイプの野球の動作を学習し反復できる練習専用の野球特化型ヒューマノイドの開発する。彼の長年の相棒であり、社長である元捕手の六平は、その技術をメジャーリーガー対ヒューマノイドの興行や、人間とヒューマノイドの混成リーグ設立というビジネスへ転用しようと画策していた。「技術は人を輝かせるもの。機械を主役にするのは野球への冒涜だ」 谷山の怒りは、殺意へと変わる。
かつて谷山と六平のコンビが優勝を飾ったWBC開幕戦。始球式のマウンドに立ったのは谷山。捕手は六平。そして打席には、谷山が開発した最新鋭のヒューマノイドが立った。 谷山が左腕から投じたのは、現役時代の代名詞スイーパー、鋭く内角へ曲がる高速スライダー。六平はそれを捕球するため、無意識に頭の位置をわずかに横へずらす。その瞬間、ヒューマノイドのバットが、ボールではなく六平の側頭部を正確に打ち抜いた。血飛沫が舞う中、観衆は悲鳴を上げる。ヒューマノイドのハルシネーション(誤作動)に見えた。
AIのハルシネーションを専門に追う刑事が捜査に訪れる。刑事は谷山が始球式の直前にバッターをピッチャーへ、替わっていたことから、谷山を疑い始める。
翌日、谷山に野球型ヒューマノイドの特性を聞く刑事。その特性は優良なデータを学習させることで、人工知能が正解パターンを模倣する再現性であることであると谷山は語る。刑事は、「なるほどAIは学習したデータに忠実なのだと。もし、これが事故なら、AIはあのスイングでどこへボールを飛ばそうとしたのでしょうか?」谷山は「AIの判断プロセスはブラックボックスであり、私にも測り知れない」と語った。
深夜のドーム球場。刑事は谷山に、ある実験を申し出る。マウンドには、事故の日の谷山の投球を再現するヒューマノイド。打席には左打ちの谷山。往年さながらに、完璧なホームランを放つ。
すると、刑事は事故を起こした右打ちのヒューマノイドを打席に立たせる。それは何度振っても不自然なファールを繰り返した。そこで刑事は、一枚の解析チャートを突きつける。
「谷山さん、このAIの動きを左右反転させて、あなたの今のホームランのスイングと重ねてみました。……驚くほど一致する。あなたは、自分が左バッターとして『外角の球を拾う』ための極意のデータを、右打ちのAIに『ミラーリング(反転)』させて流し込んだ。その『反転した座標』こそが、捕手の六平さんが頭をずらす位置と寸分違わず一致していた。バットの軌道に六平さんの頭を持ってくるための正確なコントロールはあなただからできたものですよね」
「刑事さん行きましょう」谷山は球場へ深く一礼するとベンチ裏へ消えた。
文字数:1196
内容に関するアピール
倒叙ミステリーの形式で書きたいです。刑事コロンボ風の飄々と操作しながら、会話で犯人や周りの人をから手がかりを得ていくイメージ。
語り手は、完全な第三者として神の視点で書くことを想定しています。
WBCを試合や関連する元選手のyoutubeを見ていて、スポーツ精神や美学というファンが求めるストーリーと、興行・ビジネスの論理の対立を元スター選手だからこそのストイックさが犯罪を犯してしまうという皮肉を描きたいと考えています。
文字数:209




