梗 概
メタマテリアル生産都市へようこそ
ようこそメトセラ14へ。
私たちの都市が解放されてから丁度百年。今年は君たちのような見学者が多くて驚くよ。
街は退屈だったかい? しかし閉鎖都市の中身なんてこんなものさ。大きめの田舎町と違いはない……ここ、希少物質生産工場を除いてね。君たちがこの工場を拝めるようになった歴史の話はきっと、退屈ではないと約束する。
この工場で作っているのはメタマテリアル。自然界に存在しない表面構造を持った物質は、色彩や吸音性において独特な物性を持つ。そして最も偉大な発明が、負屈折率を有する光学迷彩布だ。
長年開発を夢見ていたヴェル工場長はそれが叶うのを見る前に謀殺された。彼は科学技術の平和的利用を唱える活動家でもあって、軍部には彼を厭う者も多かったそうだ。その後職員達はその透明布の製品自体に「ヴェル」と名付けた。ヴェルは祖国に奉納するものだったが、職員達は工場長の遺志を汲みヴェル使った遊びを考えた。
透明布は、表面が光を強く回折させることで背後の景色を浮かび上がらせる仕組みだから、布が覆う物体の面積が大きくなると全体が透明にならない。具体的には全長140cm程度。だから彼らは、可視の大人と不可視の子供の追いかけっこでよく遊んだ。
そこには工場長の孫娘、ラーシャもいた。彼女は隠れることに関して天才的で、時々本当に街からいなくなったと思われてしまうほどだったという。
問題はここからだ。後日街に訪れた輸送部隊は、ヴェルの他に、隠密に優れた人間を当局に出頭させよと命じた。透明化して作戦を遂行する兵士を国は求めている、これは名誉あるスカウトだと。白羽の矢が立ったのは当然ラーシャ。彼女も大人達も思いは複雑だったろう。ラーシャの祖父は国家に殺されたようなものだったのだから。
いずれにせよ、彼女が去り際に残したとされる言葉はこうだ。
「これからは、私のことは亡霊だと思って」
ラーシャ達が街を発って三日後、輸送部隊の隊員達が山奥で冷たくなっているのが発見された。遺体の中にラーシャの姿はなくヴェルも紛失された。
グリズリーによる事故だとメトセラ14は主張したが、当局はラーシャがヴェルを使って暗殺したと断定した。証拠がなくても関係ない。当局は都市を丸ごと粛正せんとしたのだが、いざ攻め込んだ時、子供の姿が『一人も』見えなくなった街を見て、彼らはそれをやめた。この街には工場長とラーシャの亡霊と心中する覚悟があり、隠密と暗殺の技術があった。
代わりに当局は全てを明らかにすることにしたんだ。この町は地図上に記載されるようになり、メタマテリアルは市場に出され。私は隠し事なくお話ができるようになったわけだ。
ラーシャの行方? ……生きているなら113歳ってことになるね。案外近くで私たちを見守っているのかもしれない。
さあ、お勉強はここまでにしよう。この後の透明追いかけっこ体験会に出席する子達は裏に集まってくれたまえ……
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内容に関するアピール
語り部について
語り部はとある社会主義国家※の閉鎖都市の住民。この都市は100年前の事件をきっかけに存在が公にされ、そこにある最先端材料工場に観光客や社会見学者が来るようになったため、住民が観光案内人となり歴史の顛末を語っています。
※秘匿された軍事工場を営む閉鎖都市というとロシア(ソ連)などが知られていますが、昨今の国際情勢の不安定さを鑑みて、特定国家の軍事に関するIFを描くことに抵抗があったため梗概ではあえてぼかしています。
メタマテリアルについて
透明布の原理は、物質表面の微細構造によって通常ではありえない光の回折を起こすことで、「布とそれに覆われた物で遮られている反対側の景色を、布の表面上に映し出す」ことで成り立っていると解釈しています(鏡のように光を反射する代わりに、光を裏側まで受け流すイメージ)。そのため布面積が大きくなると、回折が全面をカバーできず欠けたように見えます。
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