アユタヤ2025

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梗 概

アユタヤ2025

2025年11月。バンコク市内のチャトチャック市場近くにある乗り場から長距離バスに乗り、エル(32)はアユタヤに向かっていた。時間にして2時間、4月に続いて2回目の訪問である。目的は、ワットプラマハータートの再訪だった。世界遺産として登録されたアユタヤの遺跡のなかでももっとよく知られるワットプラマハータートは、ガジュマルの根に絡まれた仏頭で知られる。バスの外の景色をみながら、エルは日本にいる松村絹子(78)のことを考えていた。

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松村絹子は娘である茜(48)と二人暮らしであり、認知症と診断されている。日常生活は自立しているが、記憶の保持は難しくなっており、夜になると”木の下に座っているオレンジ色の布をまとったお坊さんに、指輪を預けている”という話を繰り返す。エルは精神保健相談を担当する保健師であり、この相談を茜からうけている。絹子に直接あって話を聞いたエルは、その風景描写が4月に訪れたワットプラマハータートによくにていることに気がつく。

絹子は何をみているのだろう。アユタヤに到着したエルは、そのままワットプラマハータートに向かう。時は正午、日差しが強く人は疎らである。そして辛うじて木陰をつくっているガジュマルの下に、エルはオレンジ色の袈裟をまとう僧の姿を発見する。

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その若い僧は、目を閉じ熱心に祈っていた。袈裟は新しく出家したばかりなのだろう。僧を眺めていたエルは、時々動くその口の形から彼が呟いているのが日本語であることに気がつく。30分ほど祈り、その僧は去っていく。

遺跡近くのホテルに宿泊したエルは、次の日もその次の日もワットプラマハータートを訪れる。正午になると僧はやってきて、同じように30分祈り去っていく。4日目、祈り終わった僧をエルは尾行することにする。バスに乗り船で河を渡り、船着き場についた彼は突然振り向いて、なぜつけてくるんですか、と少し訛りのある日本語でエルに声をかける。エルは謝り、松村絹子が探している指輪の話をする。ついてきてください。そういって僧がエルをつれていったのは、アユタヤ日本人村であった。

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僧は自身をアチャポンと名乗った。祖父が日本人であったためタイと日本の関係に興味を持ったこと、アユタヤ王朝には最盛期には8000人ともいわれる日本人がすんでいたこと、王朝滅亡の約40年前にあたる1630年、日本人村が焼き討ちにあったと知りその鎮魂にあたっていることを述べる。アチャポンが日本人村資料館の館長に焼き討ち後に残された遺品を確認すると、奥の倉庫から木箱に入った指輪がみつかる。エルは事情を話して木箱ごと譲り受け、帰国後松村絹子に指輪を渡す。その日の夜から、松村絹子の口から指輪の話がでることはなくなった。

 

 

 

 

文字数:1170

内容に関するアピール

語り手は、輪廻転生する命の源を司る主です。この物語では、1630年にアユタヤ王朝で焼き討ちにあった誰かの思いが、2025年の日本に暮らす女性の中に引き継がれていることを描きました。

文字数:90

課題提出者一覧