梗 概
セノタフ
今日は僕(A)が大切な人をもう一度殺す日だ。
Aは現実に居場所のなかったBとCと共に、「自分たちの世界をつくる」ためフルダイブVRMMO『彼方』を立ち上げた。舞台はポストアポカリプス——現実に絶望した三人のささやかな皮肉。互いに想い合う幼馴染BとCに対し、後から加わったAはCへの恋心を胸に秘めていた。
リリースからしばらくたったある年。難病のBは安楽死を選んだ。本来Cが手を下すはずだったが、Bが予定時刻にわずかに間に合わず、Aは「Bは来られない」とCに嘘をつき、Aが安楽死を実行した。本当は待てたが、愛するBの最期を独り占めしたかったのだ。呆然とするCには「Bが望んだ」と重ねて嘘をつく。すぐ後悔したが、Cは言葉も交わさぬまま、この居場所から離れるように、ゲームからも地球をも離れた。
『彼方』での睡眠中レベル上げ用AIオートモード機能は、異常なまでの精度があり、密かに話題だった。
そう死んでからもAI(仮想)のBがゲームに残った。
仮想Bは死の記憶もなく昔のままAに接する。Aは会うたび三重の罪——殺した罪、Cから最期を奪った罪、Cを欺き続ける罪——に蝕まれながら、しかし停止する勇気もなくログインし続けた。
リリースから15年後の現在、隕石衝突で世界が本当に終わると判明して一年。ゲーム内で幾度も描いた世界の終わりの既視感。倫理が崩壊し、人間が壊れていく。しかしAに絶望はなかった。ようやくサービスを停止し、Bを「もう一度」殺す踏ん切りがついた——そんな安堵だけがあった。
Aは世界が終わる前に、Bの命日にサービス停止を決意する。
停止予定の命日。突如Cから連絡がくる。Cが数ヶ月前から地球に戻っているのをログインサインで確認していたが、罪悪感からAからは連絡してない。
B が指定した想い出の場所へ移動するとBとCが談笑している。Aに気づいたCが何かを言いかけた矢先、Aは堰を切ったように嘘と罪を告白する。許されるはずのない謝罪を。Cは黙って聞いていた。Bは悲しそうな目をしながら微笑を浮かべている。
すべてを話し終わると、他プレーヤーがざわめきたっているのに気づく。「世界が救われた」——宇宙チームの特攻により隕石爆破が成功。しかし全員死亡。人類を救った英雄リストのになんとCの名が。では目の前のCは?
CはすでにAI化されていた。死を確信した最後に地球へ帰還し、自分の想いをゲーム内に託していたのだ。
仮想Cは語る。かつて絶望したその世界を救った心の内を。Bが死んだ当時の絶望、恨み。しかし宇宙で世界の終わりを前にして気づく。自分に残ってるのは、AとBと共に過ごした、この仮想の世界だけということに。
世界中の歓喜の中で心の穴が塞がらぬA。
BもCも、もうこの世にはいない。ただ、3人でつくりあげたこの場所と仮想の魂だけが残される。Aはセノタフ(慰霊碑)となった『彼方』をいつまでも見守り続ける。
文字数:1191
内容に関するアピール
※ 3人の名前は実作で挿入
仮想と現実、2つの終わりが重なる物語を、というところから着想。
フルダイブ型VRゲーム、隕石での世界の終わり方、AI人格などSFの装置としてはいずれもありがちなものだが、組み合わせることで新規性が生まれればと考えている。
梗概だと文字数の関係で、展開に重きをおいたので、心情が深堀り切れなかった。実作では心の動きや会話が重要な物語になるので注力していく。
文字数:187




