梗 概
ジェネシースー
三十六歳、独身。執着も野心もなく、ただ風に吹かれるように生きてきた男がその朝ひとり旅の旅先で目覚めると、世界から人間が消えていた。争いの痕跡も遺体もない。ただ脱ぎ捨てられた衣服たちが、そこに誰かがいたことを証明している。人類という存在だけが消失したのだ。
男は旅館に残された豪華な食材を漁り、酒を煽り、隠居生活を楽しむ。しかしインフラが沈黙を始めると景色は一変する。漆黒の闇に包まれた温泉地で、男は行動を開始する。車を拝借し、当てもなく走り出す。その途上、寂れたサービスエリアで、生き残りの人類であるマサさんと出会う。中卒で叩き上げの彼は、頼りないインテリ男とは正反対の豪快な男だった。
「人類を復活させようぜ」
マサさんの提案は突飛だったが、男は考える。この事件は、人類を超越した知的生命体の仕業だろう。彼らは地球を侵略するため人類を排除したが、なぜか二人だけを残した。それは、人類の可能性を見定めるための検体としてではないか。ならば、我々が人類には生かす価値があると証明できれば、この状況は覆せる。日本人である自分たちが示すべき、究極の価値。二人の男は話し合った末、自然とその結論にたどり着く。
「寿司を握ろう」
素人による寿司修行が始まった。海へ出て魚を釣るが、捌くことすらままならない。二人は街へ遠征し、寿司アカデミーのDVDと乾電池駆動のポータブルプレイヤーを調達する。小さな画面に映る職人の手捌きを、深夜の暗闇で食い入るように見つめる。文明が途絶えた世界で、義務も名誉もなくただ目の前の一貫を握る。その純粋な喜びが、二人の心に灯をともした。
ある晴れた日の海岸、瞬きをした瞬間に、そこには半透明で流体的な体の超越存在が現れる。二人は寿司職人の白衣に身を包み、凛とした空気の中でポスト人類の特上握りを献上した。超越存在はその造形美にたじろぐが、その後どうしていいかわからない。マサさんは手本を見せるべく、一貫の寿司を口に運んだ。それを見た超越存在も、身体に口のような穴を開けると、その核へと寿司を放り込む。
瞬間、超越存在の体は震え始める。奇妙な高音が入りまじった断末魔と共に、半透明の外皮が溶け出す。人類を超えた存在にとって、寿司はまさか未知の猛毒だったのか。わからない。ただ、人類復活の鍵を握っていた存在は、図らずも消え去った。
「マサさん、どうしましょう。神様殺しちゃいましたよ」
「しゃあない。元に戻らないならまた作るしかないな、人類を」
自分たちのように、どこかで試されている人間が他にもいるはずだ。そしてそんな人間を寿司は救うことができる。あわよくばそこにいるのが自分たちに好意的な女性なら、人類はやり直せるかもしれない。
二人は寿司道具を愛車に詰め込み地図を眺める。まずは日本中に寿司を届けに行こう。エンジンの咆哮が、静まり返った世界に響く。夜明けの道を、人類創生の出前が走り出した。
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内容に関するアピール
色んなタイトルを他にも思いついたのですが、最終的にはこの言葉の響きに抗えませんでした。
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