梗 概
方舟にチープなモンスターは乗せるべきじゃないけど
ある日、映画マニアである「君」の部屋に大きな棚に現れた。棚の大部分を占めるのは映画のビデオ。棚を探すうちに「Watch me」のメモが貼られたビデオが見つかる。奇妙なモンスターがパッケージに描かれていたが、ひとまずそれをビデオデッキに挿入した。
映像が再生され、ソファーに座った男が語り出す。
「君」に向けて、男は棚について話を始める。背後で男の部屋にある棚が映る。形状や収納物から、部屋に現れた棚と同じだとわかる。
「三十年前、私の前にもこのビデオラックは現れた」
かつて、男の前にも棚は突然現れた。
棚の中身は知らない映画ばかりだったが、調べてみると映画の公開記録そのものが見つからない。しかも棚の中心には、綺麗に挟まって取り出せないビデオが二本もあった。
調査を続けるうちにある現象が起きる。
取り出せなかった二本のビデオの隙間。ビデオ一本分程度の小さな空間が歪んで、見えるはずのない「向こう側の景色」が見えるようになった。
向こう側から、若い女がこちらを覗き込む。彼女曰く、自宅にある棚の隙間が突然歪み、向こう側が見えるようになったという。
会話の中で互いに映画好きだとわかり、二人は仲良くなる。しかし一週間後、彼女が打ち明ける。
「もうすぐ隕石が落ちて、すべてが終わる」
女は隙間を通じてビデオを差し出す。「この映画だけは遺ってほしかった」と告げて彼女は去り、やがて棚は以前の状態に戻った。
ビデオ規格が共通するほど近しい、滅びゆく世界から遺物を集める。その棚の管理者に選ばれたのだと男は理解する。
しばらくして、また世界との接続が起きる。無力感に襲われながらも、繰り返すうちに決意を固める。
滅びゆく世界の住人に寄り添いながら、彼らが遺したい品々を受け取る。どの人物も男と趣味が近く、渡されるものは映画が多かった。集まった作品一つ一つに男はメモを残す。誰が、どんな想いでこの映画を選んだか。
三十年後。男の世界でも異常気象が観測される。雨が降り続け、世界は水に沈んでしまうという予測が決定的になる。
もし棚のある世界が滅ぶなら、棚はどうするか。中身を抱えて、再び安全な世界へ逃げるのだろう。
棚のせいで自分の世界は滅びないと思い込んでいた。常に受け取る側だった男は初めて何を遺すかを迫られるが、妙な安堵感を覚える。彼らも、こんな気持ちだったのだろうか。
男はチープなモンスター映画を選ぶ。駄作だが、自分が一番心を動かされる映画だと熱く語る。
「方舟にチープなモンスターは乗せるべきじゃないけど、これは私の人生の一作なんだ。それだけで遺す価値があるって、みんな思ったはずなんだ」
映像のあと、その映画が始まる。これから「君」は重い役割を背負うが、暗く捉えないでほしいと男は告げる。
「棚に選ばれたのなら、君も映画が好きなんだろう? せっかく違う地球の映画が見られるんだ。どうか楽しんでほしい。映画好きとしての、最後の願いだ」
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内容に関するアピール
大林宣彦が監督した『HOUSE』が大好きです。未見の人間がいるとウォッチパーティに誘って見せるのですが、必ず顰蹙を買います。それでも大好きです。現代の創作物にないエネルギーを感じます。
世界が滅ぶにあたって何かを遺すとして、その選択権が世界全体にあるなら、きっと価値があって妥当なものが選ばれるでしょう。しかし選択権が個人にしかない状況が生まれたら、馬鹿馬鹿しいものが独善的に遺されるかもしれません。今回はその選択を肯定する話を考えました。自分も『HOUSE』遺したいので。
実作では全体を男の独り語りで構成し、ソファーに座る男が話すところから始まります。「君」はビデオの映像を見ている人物ですが、読者と同一の存在ではなく、棚に選ばれた誰かです。
棚の正体は『滅びゆく世界から映画を狙って集めるビデオラック』です。自発的に生まれたのか、誰かに作られたのか、実作では明かしません。(決めてません)
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