擬態の記憶

印刷

梗 概

擬態の記憶

午前7:00。研修医Q(26)の部屋のTVに、隠岐の島の海岸に巨大蛸の死体が流れ着いたとのニュースが流れている。近海に住み着いていたその蛸は巧妙な擬態で地元漁師に知られており、過去には評判を聞いた番組制作チームが、光る珊瑚を模した姿を映像にとらえたこともあった。美しく煌めくその映像を強い憧れとともに記憶していたQは、死体がどす黒くすでに腐っているようであることにショックをうける。

Qは最近仕事という名目で、ホルマリン漬けの臓器をひたすら仕分ける作業をしている。生命が途絶えたあとの生き物はただのモノであり、醜い、とQは思う。生きているうちにはできるだけ自由で美しい姿でありたい・・水中で光っていた、あの蛸の擬態のように。

♦️

翌日、Qが所属する大学病院の研究室に巨大蛸のホルマリン漬けが搬入される。細胞の標本化が目的と説明され、Qも数名のスタッフの一人として選出される。標本作製を進めているなかで、彼はうっすらと光を放つ細胞を発見する。
(生きている…!)押さえきれない喜びを覚えつつ、Qはその細胞をなんとか自分のものにしたいと考え、秘密裏に培養をはじめる。

♦️

QにはM(31)という片想いの同僚がいる。親が医者という理由で疑うことなく地元大学の医学部に進み今に至るQとは違い、Mはイギリスで生物学部を卒業後、日本に帰国し医学部に再入学していた。研究室に運ばれてきた巨大蛸をみたMは、蛸の皮膚にある特殊細胞が瞬時に対象を捉え、色や模様を変化させるのだとQに語る。

Mのことをもっと知りたい。
そうおもったQは、培養した巨大蛸の細胞を自分の手に移植し、その手でMに触れてみたいと考えるようになる。実験を繰り返し左手の異種移植に成功したQは、意識を集中したときにのみ、蛸の細胞が左の掌で効力を発するよう訓練をする。そしてついに仕事の帰り際、挨拶と称してMの右手をぎゅっと握ってみる。その瞬間、Qは掌にもぞもぞとした感触を覚える。
Mとわかれてから物陰で掌を開いてみると、そこには七色の光沢をした天道虫が続々と浮き上がってくる。Mは天道虫が好きであり、右手で触れて戯れているてときのMの記憶の波動が、Qの左手のなかで再現されているのだった。掌から次々と飛び立っていく天道虫をみながら、Qは恍惚とする。波動は全身に広がり、Q自身も天道虫として空に飛び立つ。

文字数:998

内容に関するアピール

この作品では、魔法使いは蛸、弟子は人間(Q)です。

文字数:25

課題提出者一覧