遺志は星に還った

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梗 概

遺志は星に還った

太陽系外で見つかった惑星は地球人類が踏み込める新たな調査地であった。莫大な調査費用にも関わらず企業連合がこの星の調査に血道をあげる理由は、クォムと呼ばれる新種の微生物にあった。
 菌糸系のクォムは、人類を含む外敵からの『意志』に反応して性質を変えるという特徴があった。曖昧な形態が、意志に晒されることで特定のパターンに固定化されるという機序は、測定行為で状態が決まる量子的性質に例えられた。天然の量子性生物と呼べるクォムは、解析が進めば産業を一変させる力があるとされていた。
 採集を行う現場の人間は、そのような事情を知らされていない身分の低い労働者である。カナメは幼い頃に両親に売られ、騙される形でこの星に来た若者だった。
 労働者たちは頭にサイバネティック手術を施し、採集活動時には供給されたプログラムをインストールする。これは集中力を高めるプログラムだと説明されていたが、実際には人から『行動に伴う意志』を奪う仮想人格プログラムだった。離人感に包まれ、無意識のように体が採集活動をする仮想人格により、クォムを意志に晒さず採集できるのだ。
 テック企業で冤罪の罠に嵌められこの星に飛ばされた同僚のソランは、仮想人格の仕組みに勘付いていた。彼はカナメを弟のように可愛がり、カナメの知らない量子性の学識から、仮想人格の危険性とクォムの秘匿された性質について仮説を語り聞かせた。
 しかしソランは事故で、それもカナメの目の前で命を落とす。仮想人格を走らせていたカナメは防護服の不調を訴えるソランを助けようという『意志』を持てずに見殺しにした。仲間からも非難され孤立したカナメは仮想人格プログラムとそれを推進した企業を憎むが、それなしでは仕事はできない。
 ソランは生前、仮想人格を使わずに採集を成功させる方法を示唆していたが、カナメはソランの遺品に触れた際にその方法を偶然知る。それは、クォムそのものを自身の身体に寄生させることだった。菌糸類が自分の神経に定着すると、宿主の内側にも『意志が量子化した状態』が生まれ、クォムに向ける意志が顕在化しなくなる。
 不気味ではあったが、カナメはこれをソランが遺してくれた企業への抵抗と捉えた。仮想人格の管理なしに活動すると、不当な扱いへの反骨心が蘇った。ソランの仮説と自身の体験を元に仲間へ寄生を勧めると、最初は拒絶されたが、労働効率が劇的に上がることが決め手になり寄生を選ぶ労働者は増えた。
 企業連合はカナメの奇妙な活動を粛清しようとしたが、既に手遅れだった。クォムのネットワークは人体を介して広がり続け、惑星で最大の生物個体となっていた。クォムはカナメの抱えた怒りの意志を菌糸ネットワークを通じて惑星中の同類に伝達させた。それにより、全てのクォムは一斉に量子状態から通常状態へと遷移した。
 あとには何の価値もない、平凡な微生物の巣食う惑星だけが残った。

文字数:1191

内容に関するアピール

 芥川が好きで、彼の古典を題材にした作品に憧れがあったので、物語のアーキタイプをなぞるやり方は自分にとって楽しい活動でした。とはいえ魔法使いの弟子は、余裕をかましている弟子の滑稽さが現代だと読者のストレスになりがちだとも思っています。そのためというわけではありませんが、今回は師匠の教えを不完全ながらも信じ、継承しようとする(そして予期しないことが起こる)話を考えてみました。
 意志そのものは目に見えませんが、意志を持つと思考回路は変わるし、身体にも何らかの反応が出ます。その意志が現れたり現れなかったり、人間の意志だったり菌糸の意志だったりする様を描くことで、復讐心や弔いの心という人間にとって強烈な意志をテーマにしています。
 クォムという微生物は、外敵に狙われると壁をすり抜けて逃げたり、あるいは栄養のない姿になったり、というタチの悪い生物への妄想からスタートしています。

文字数:388

課題提出者一覧