梗 概
あるロボットの寄る辺
大量の廃棄ロボットがマグロ漁船に積まれている。
漁場までの間、マグロを収容する倉庫が空いているマグロ漁船は、その積載量の余裕を利用して廃棄ロボットを遠洋で不法投棄するグレーな仕事を請け負っていた。
甲板に載せられたロボットは、荒波の揺れによって柵幅の広いマグロ漁船から「たまたま」海へと滑り落ちていく。
その日も、順調にロボットたちが海へと消えたなか、一体のロボットだけが柵に引っかかって残ってしまっていた。
そのロボットは基礎形体が人型で、丈夫な足が四本、腕は垂らすとくるぶしまで届き、胴体は恰幅良く、背には積載板が収納され、頭はシャープなフォルムをしていた。主に荒地での運搬用として使われている非常に頑丈なロボットであった。
仕方なく船員がそのロボットを押し出そうとした時、誤ってロボットを起動させてしまう。驚いた船員はそのまま海へとロボットを突き落としてしまった。
起動したまま海に投げ出されたロボットはなす術なく深海へと落ちてゆく。
暗闇へと沈むなか、数十年ぶりに起動された彼は、自動的にログチェックを開始していた。
彼が最初に起動したのは日本の上流家庭でだった。主に登山時の荷物持ちとして購入された彼は、一度に家族全員分の登山リュックを持ち運び、とても喜ばれた。しかし、その家庭に新しいロボットがやってくると、彼は中古品として売りに出されてしまう。
稼働開始時からの記録が正常に確認された彼は、自身が求められる場所へと戻るためにログチェックを継続する。
次に彼が行きついたのは格安引っ越し業者だった。そこで彼は日々多くの引っ越し作業をこなしていく。社員の想定以上の運搬機能を発揮した彼はとても重宝された。しかし、腕の関節部に不具合が認められると、すぐにお役御免となった。
海外業者を経由して次に彼が辿り着いたのはネパールのルクラだった。そこは年間4万人の登山客が訪れるエベレスト登山のスタート地点だ。不具合が修理された彼は再び登山客の荷物持ちとして活躍した。活躍するにつれ、彼の仕事場はどんどんと標高を上げていき、最後にはエベレスト山頂に到達する。
彼の内蔵カメラが記録したエベレスト登頂動画は、彼を含めた登頂パーティの集合写真と共に世界中に拡散され、一時は彼をひと目見るために5300m地点のベースキャンプまで訪れる人も現れた。
長年に亘り、彼は多くの人と巡り合ってきたが、いよいよ経年劣化で積載量が落ちてしまう。
そうして今、彼は暗く深い海の底へと辿り着いた。
そこで彼は幸運にも海底下掘削ロボットと出会い測位データを得る。現在地を把握した彼は目的地に向かって海底を歩きはじめた。
彼は、仕事の定量評価法として「人からの高評価数」を採用していた。
どれだけの時間がかかるか、本当に辿り着けるかも分からない。しかし彼には丈夫な足がある。
彼の寄る辺は標高差1万5000m先に設定された。
文字数:1200
内容に関するアピール
まず、読者・編集・自身の思惑を考えてみました。
読者:SFに明るくない。読みやすく面白いSFが読みたい
編集:雑誌つばるの特色を理解してもらった上でのSFを期待している
自身:自己紹介・名刺代わりになるものを多くの人に読んでもらいたい
以上から、分かりやすいSFとしてロボットものにし、読者に心情と情景を楽しんでもらえる作品づくりを意識しました。多くの人の印象に残るよう、想像可能な最大のスケール感として海底やエベレストという縦の距離を書くことにしました。
無機物のフラットな視点から人との交流を描き、人の生活感や歩くという動作の質感を読者に感じてもらいたいです。また、その幕間に深海へと落ちていく孤独と静謐を描いて情景のギャップも楽しんでもらえればと思います。
本作が好評得た際は、海底に沈んだツバルで未確認生物とのファーストコンタクトを果たす第二話が生まれる予定です。
文字数:387