あなたの後ろにSFが

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梗 概

あなたの後ろにSFが

 今から少しだけ先の未来、国家と国家の分断は深まっていた。
とりわけ東アジア情勢は混迷を極め、日本、中国、ロシア、アメリカの関係は緊張状態にあった。
そんな中、SF小説家志望の大川譲(じょう)はハネカワ書房SF賞を受賞し、念願の作家デビューを果たすことになった。

 喜ぶ大川は、アドバイスをよくもらっていた先輩のSF作家、山城へ礼を言うため電話をするが出ない。
何か用があるのかと思い、そのときは特に気にしなかった大川だが、その後数日間に何回連絡をしても一向に山城は出なかった。
心配した大川は山城の家へ向かうが、憔悴した様子の山城の妻から、山城が編集部に向かうと言って出かけたきり、もう2週間も家に帰っていないということを聞かされる。

 編集部へ向かった大川は、同じ担当編集である前田に山城が来なかったか尋ねるが、来ていないという。
答える態度にどこかよそよそしさを感じた大川だったが、ひとまず警察へ相談に向かうために帰ろうとする。
そのとき前田の机に電話があり、「待ってください、大川さん」と呼び止められる。

 大川は前田にこれから社長と会って欲しいと言われ、怪訝に思いながらも社長室へ向かう。
そこには社長のほかに、男がひとりいた。社長は言う。
「大川さん、この方は防衛省の井口さんだ」
突然のことに戸惑う大川へ、井口は話し始める。

 今、日本が水面下で静かにサイバー攻撃を受けていること。
その状況が山城の書いたSFと極めて似ていること。
それに気が付いた防衛省が、「顧問」として山城に協力を依頼したこと。
―――山城はこれから先の「シナリオ」を書くために防衛省へ連れていかれたということ。

 突拍子もない話に大川は、なぜ私に教えたのかと尋ねる。
井口は、これから複雑な局面が予測される戦況に対応するためにもっとSF作家が必要なのだと言う。
姿が突然見えなくなっても新人作家ならば目立たないだろう、とも。

 井口の態度に憤慨する大川だったが、その一方で、今まで自分が読んでいたSFのような展開に少しの興奮を覚えていた。
大川は、本当に山城がそこにいるのか信じられないから確かめると言って協力を承諾する。
井口の運転する車で防衛省へ向かった大川は、山城と再会する。多少やつれてはいたが、元気そうではあった。

 その後、大川は山城から聞かされる。アメリカや中国、ロシアも同じようにSF作家を集めていること。
中でもロシアやアメリカは、過去のSF作家の作品から新しい作品を書くAIを作り、戦況を予測させているということ。

「―――過去の作家と勝負できる」
そう考えた大川はこの「仕事」にのめりこんでいく。

 数週間仕事をしたのち、大川は思い出す。そういえば依頼されていた小説つばるの原稿がまだだった。
デスクの片隅で、執筆用のPCを開く大川。
少し考えたあと、書き始める。

今から少しだけ先の未来、国家と国家の分断は深まっていた——―

文字数:1190

内容に関するアピール

 はるか先の未来を描くものとしてのSFは、今や現実の方が追い付いてきて、我々を背中からチクチクしてくるようになりました。

 実際にフランス陸軍ではSF作家が雇われていますし、星新一の作品をもとに新作を書くAIも登場しています。

 普段SFを読まない方に興味を持ってもらうためには、「今のこの状況は過去に○○によって予測されていた!」というようなものがわかりやすいかなと思い、本梗概のような内容としました。

文字数:200

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