飛び降りるなら高さを示せ

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梗 概

飛び降りるなら高さを示せ

主人公の式島遠矢には奇妙な同居人がいる。人間の体を自在に憑依して乗っ取る、まるで幽霊のような女(いや男かもしれない)だ。その女だったり男だったりする存在は「ゴースト」と名乗った。あまりに多くの人間に憑依してきたので、本当の名を忘れてしまったのだ。ゴーストは式島に惚れ込んでおり、愛される為に様々な女に憑依しては式島の前に現れる。若く美しい女優、世界的に有名な歌手、資産家、政治家…だが式島は呆れたように「そういう事じゃない」と追っ払うばかり。ただお気に入りのAV女優にゴーストが憑依してやってきた時は、さすがに肝を冷やした。

ある豪邸の寝室で、資産家の男が刺殺される事件が起こった。捜査一課の刑事である式島が現場に駆けつけると、容疑者の一人にゴーストが憑依していた。胃をさする式島。式島はストレス性の胃痛持ちだ「一応聞くが、お前がやったんじゃないよな?」。ゴーストは不謹慎なワクワク顔で「殺人現場って、一度来てみたかったんだよね」とはぐらかす。式島の胃がズキリと痛んだ。
 セキュリティの高い豪邸は半ば密室で、犯人の侵入経路は不明だ。聞き込みによると、被害者は昔から度々コールガールを呼んでいたようだが、容疑者の中に女はいない。ゴーストは現場にいる人間に次々と憑依しては、式島と探偵ごっこ気分だ。瞬く間に犯人を見抜いたゴーストは、ヒントを与えながら式島の推理を導いていく。思い込みを捨てろ、とゴーストは言う。
 犯人が侵入したのではない、被害者が犯人を招き入れた。つまり犯人は被害者の豪邸によく出入りする人物だ。外見が違うからといって、コールガールが別人とは限らないし、コールガールが女とも限らない。ゴーストの推理はこうだ。容疑者の中で最も被害者と親密だった秘書は、プライベートで女の格好をして度々被害者に会っていた。驚く式島「秘書に女装をさせてたのか?」、「その逆。女装好きを秘書にした」。殺した動機はわからないが、長年女装姿で会っていた人物に、職場では男の格好をしろと強制したのだとしたら、二人の関係に歪みがあったと推測するのは容易だろう、とゴーストは言う。

犯人はやはり秘書だった。だが式島は、会社の金を横領したトラブルの線から自白させたと言い、女装して被害者と逢瀬を重ねていた事を秘書は認めなかったという。「人間は器を変えられないから大変ね」と言う残酷なゴーストに、式島は苛立つ。ゴーストは事件解決の褒美にとキスを迫るが、式島は拒んだ「お前はわかってないな。お前にとって俺は俺だ。でも俺にとってお前は、“お前”であると同時に、常に違う“誰か”でもあるんだ。同意のない性交は犯罪だ」。なんだか不満そうな顔でゴーストは出て行った。
 翌日、懲りないゴーストは式島と顔見知りの男性警察官に憑依してやってきた「彼なら大丈夫だ。君に密かに恋してるらしい」。式島は胃をさすりながら「そういう事じゃない」とぼやいた。

文字数:1200

内容に関するアピール

シリーズ化が可能な短編を意識。何者にもなれるが何者でもないゴーストという存在を通じて、ルッキズムやジェンダーについて今一度読み手に意識させるような内容にしたい。

文字数:80

課題提出者一覧