火星発、パリ行き

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梗 概

火星発、パリ行き

民間宇宙旅行が一般化した未来を舞台に、火星商用便のキャビンアテンダント達を描くSFお仕事小説。

大手の民間航宙会社に勤めるアメリカ人CAのメアリー・ディッキンソンは、岩だらけで華やかな観光名所もない火星での憂鬱なステイを終えて、パリ行きの航宙便に乗り込む。CA歴6年の彼女は、角筈つのはずカレンという日本人の後輩のOJTを担当している。転職組のカレンはメアリーと同い年で、右腕が義手になっているレズビアン。仕事でのミスは多いが憎めない性格をしている。二人はパリでのショッピングや観光を楽しみにしている。

パリ便には、当初の乗客リストにはいなかった裕福そうな父親と息子がファーストクラスに乗っている。カレンは誤って配膳用カートを壊してしまい、厳格で嫌われているチーフパーサー(愛称:エアハート嬢)に叱られる。彼女を庇ったメアリーともども、貧乏くじとして親子の世話を指示される。

親子はロシア人で、父親は地球で議員として活動しており、息子は母親と一緒に火星に暮らしている。息子は低重力下で育った火星人マーシャンのためとても背が高い。乗るはずだった政府専用機が故障したため、急遽この便に乗り合わせる事になったのだという。メアリー達は親子と仲良くなるが、ふいにエアハート嬢がやってきてカレンを怒鳴りつける。カレンが給仕を担当した客のなかに、火星で独自発達した民族宗教の信者がおり、彼等が信奉している昆虫食以外の具材が含まれるミールを出されたため、クレームをつけてきたのだという。

自分のミスに酷く落ち込んだカレンは、メアリーに弱音をこぼす。CAになることがずっと夢だったのだけど適性がなく、適性があった前の仕事に戻るべきなのではないかと悩んでいることを打ち明ける。メアリーは彼女を元気づけようとするが、夢と現実の乖離を涙ながらに訴えるカレンに、かける言葉が見つからない。

そのとき、ファーストクラスの方から悲鳴が響き渡る。カレンを残してそちらに向かうとエコノミークラスからやってきた三人の男女が武器を手にして、親子に突きつけている。三人は急進的な宇宙開発を掲げる「新ロシア宇宙主義者」で、父親に対して、息子の命と引き換えにロシア政府の宇宙政策の転換をせまる。メアリーは二人を守ろうとするが、火星人マーシャンのため身体の弱い少年は殴られた拍子に肩を骨折し、過呼吸の発作まで起こしてしまう。

しかしそこで、カレンがふいに現れ、瞬く間に義手で三人を殴り倒し、驚くメアリーを尻目に少年に応急処置を施す。カレンは自分が前職で陸上自衛隊の精鋭部隊に所属していた事を明かす。

便は無事に地球に到着する。メアリーは、カレンの応急処置の鮮やかさと少年への気遣いを褒めて、前職に戻っても、CAを続けても、あなたならどちらの道でも成功できる、と請け合う。

カレンは笑って「パリ、一緒に回るの楽しみですね」と答える。

文字数:1190

内容に関するアピール

第一回の課題で皆さんの作品を拝読するなかで、SF創作講座なのに宇宙ものが少ないのは寂しいな、と思い、自分で書いてみることにしました。とはいえハードSFだとまだ知識が足らないですし、新人SF作家特集ということなので、比較的ライトに「お仕事小説+SF」を選びました。

主人公が二人とも女性で、キャビンアテンダントを題材にしているので、女性読者の方にも楽しんでもらえるような小説が書けるのではないかと思っています。

実作に向けては、航空業界で働いている友人に取材させてもらって、ディティールを詰めていく予定です。

文字数:251

課題提出者一覧