ステラ・マリスステラ・マリス

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梗 概

ステラ・マリスステラ・マリス

 地球人類は、短時間での恒星間航行を可能にする亜空間航法を開発した。しかし、それが駆動できる条件下にある場所は、辛うじて太陽系内と呼べる、地球からあまりにも遠い場所だった。そこへの到達方法として、物体をデータその他として送り出し、受信側で再構成する転送システムが編み出され、施設建設と技術の洗練、人材育成が急ピッチで進められた。
 技術者の能力やセンスに頼るところが大きく、入念な対象の分析と、亜空間航行可能点までの複数回転送を必要とするものの、安定した送受信は可能になった。生物、ことに人間の送受信に携わる転送師マイスター、物のみに扱いを限定される転送士ヴァンデルヤーレ、それらを支える分析技術者、設備運用者、各技術者養成所など、転送システムは巨大な技術複合体である公的機関として成立し、やがて存在して当然とされるものとなっていった。
 親族である分析技術者、タプが自分の養成校時代からの親友である転送士ヴァンデルヤーレモコーシアに長々しい説教を始めると、転送師マイスター資格試験の時期である、と転送師マイスターマナ・ポは感じる。ひとつ間違えれば生物を裏返しにする職業は嫌だ、と言って技術も知識も申し分ない癖に頑として転送師マイスターになろうとしない。まったくもって、第一基地の平穏な日常だった。
 人間や生物のみならず、物を転送する場合も、持ち主は詳細な内容申請と、分析の許可が求められる。しかし、内容申請すらも拒絶する依頼者が受付で騒ぎを起こしていた。
 荷は、何代にもわたって保持してきた宗教的遺産であり、代々の相続者にも開封すら許されておらず、申請しようにも内容物が何か分からない、他人が中身を取り出して分析することは何があっても断る、というのが依頼者の主張だった。基地としても、分析をしない転送は、その物だけでなく施設全体の安全性を保証しかねるので受け入れられない。
 議論が宗教の受入是非に及び始めたため、その日は一端依頼者を宿泊施設に帰した。
 法務部や分析部など各部署で議論されたが、結果として受入拒否が推された。しかし、転送システム開発・実施の際の一部宗教界との衝突が首脳部より警告される。
 「開けなければ、いいのですね」
 タプの一言がきっかけとなり、依頼者に転送後のデータ即時破棄、非開示、恒星間宙路の予約取り直しと乗船料負担を提示し、開封及び外箱も含めてのサンプル摂取のない分析の許諾を得た。これをもって、ほとんど全ての部署を通じての全ての人脈と機器を総動員してのプロジェクトとなる。
 その時点での使用可能なありとあらゆる測定機器、民俗・民族・宗教学者の意見、分析技術者が手に持って音や重みを確認し、おそらくは無事に送受信が可能であろうというところまで分析が進む。
 実際の転送技術者選考からはタプは外れた。第一基地から恒星間宙港までの一貫した送受信に、マナ・ポとモスコーシアが選ばれる。
 「まあ、裏返らなきゃ分からないよね、モコーシア」
 「マナ・ポ……」
 流出を避けるため、分析の経緯と結果をプリントアウトした分厚い紙束が二人に渡された。通常であれば最終受信後の実体再構成後まで保存される送信機データの送信後即時破棄も条件に加えられていた。
 通常よりも肉体的にも精神的にも技術者に負担がかかる転送であるため、技術者に休憩時間が多く与えられ、依頼者は宙港に先に到着して待つことになる。
 最後の転送前、モコーシアが受信側に回る。モコーシアの転送後、宙間状況の荒れが報告される。マナ・ポは念のために通信で伝えておいた。
 送信してデータを消去、紙データをシュレッダーにかける。マナ・ポの背筋に悪寒が走り、自分の宙港までの転送を頼む。急なことなので、検査がおざなりになる、先刻の宙間状況も気になる、と警告されるがmマナ・ポは了承し、転送される。
 受信側では、モコーシアが紙データ参照の暇もない調整に追われていた。操作を誤ればデータ崩壊もあり得る。
 マナ・ポが実体化と同時に板を持ってこさせ、モコーシアの横に立ちこの板を操作盤と見なせ、と言い、送信データを指の動きで再現してみせる。やや遅れて、モコーシアはそれを読み取り、宙間情報を読んだ上で調整。実体化したものは、肉眼で見る限りでは変化はなかった。
 一切のデータを消去後、依頼者立ち会いのもと、送信前ほどではないが普段よりは入念な検査が行われ、依頼者は了承した。
 「ありがとうございました。あなた方にあなた方の神による守護がありますよう」
 第一基地での打ち上げパーティーは、それまでにないほど賑やかなものだった。

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