梗 概
そのキラメキを越えていけ
群光族のミトは、第二教化学校に通う性未分化の生徒である。
群光族は発光器官による光で会話を行う種族である。生まれたときに性は無く、成長すると二種の性に分化する。
群民(ぐんのたみ)は性徴期に光の中継器官を発達させ、群民同士の発光を繋げることができるようになる。
群司(ぐんのつかさ)は性徴期に受光・処理器官を発達させ、群民を統合し群意識を形作ることができる。
割合はおおよそ10000:1。分化割合は体内物質の分泌によって維持されていたが、近年では、優秀な成績を修め希望したものが性分化導入剤投与により郡司となることができた。
教化学校では、授業の一貫で、人工の光中継器官を接続し群意識へとダイブする体験ができる。その体験で群意識に初めて接し、群司の信じられないような深い洞察に感銘を受けたミトは、漠然と群司になってみたいと思う。
ある日、性分化導入剤を輸送中だった運搬車が事故を起こし、たまたま近くを通ったミトが導入剤と製造マニュアルを拾ってしまう。無許可で所持しているだけでも重罪になる品。通報しなければならないが、選別を意識するあまり持ち帰ってしまい、導入剤を自らに投与する誘惑に駆られる。
だが、友人との会話やこれまで培ってきた価値観からなんとか踏みとどまる。
その後、同時多発的に導入剤工場が襲撃され破壊される。最初の事故は偶然ではなく、人為的な性選択に反対する群意識の離脱者たちによる犯行だった。接触を受けるミト。導入剤を拾った事実は知られてしまっていたのだ。
離脱者はいう。導入剤と製造法を渡せ。自分たちが新たな群意識を立ち上げ、誇り高き群光族を再興する。群民が群意識の一部になること、そして郡司が群意識を統率することは無常の喜びであり、抗いがたい欲望である。我らはそれを望みつつも、なお拒否する強い決意で活動してきた。
協力するのであれば、お前一人が使う分くらいは多目に見てやる。
一方、郡司は宣言する。復旧には相当の時間がかかり、今年の性分化世代への投与は間に合わない。今年のみ自然選択に任せる方式へと変更する。
悩み抜いたミトは決心し、教化学校へと向かった。そして群意識にダイブしたうえで、性分化導入剤の製造法を群意識へと解き放った。驚愕する群民たち。
製造方法の流出によって、性選択が自由になった。10000:1という、群光族発生以来の自然法則が壊れて、今後どうなるか誰にもわからない。
犯人であるミトは極刑も覚悟したが、その後なぜか処断を受けることはなかった。離脱者たちは、彼らが望む群光族の姿へと導くべく、新たな郡司の育成に取り掛かったようだった。そして彼らも処分を受けることはなかった。
郡司がどのような思考の末その決定に至ったのか、推察することは困難だった。
やがてくる性徴期。自然に任せたミトは、群民の証拠たる光中継器官の発達を見て、少し残念に思いながらも、自らの選択を後悔しないと決意するのだった。
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内容に関するアピール
このお題をいただいたとき、最初に考えたのは「性」と「自己実現、自己決定」を大きなテーマにしよう、という漠然とした方向性のみでした。このテーマは想定読者層とのフックとして用意する大きな枠組みであり、そことSFとの交差点をうまく書くことはできないか、と考えました。
ではSF的に性や自己実現を描くとして、どのような題材を採り上げればよいか?
色々なパターンをアイデア出しした末に、群意識(集合意識)を持つ生命体の社会性・性選択をコンセプトとすることにしました。生態はインターネットをモチーフにしています。
文字数:248