梗 概
サエナシくんの最適なPAL
どうもこんちは!僕たちの名前はPAL(パル)。AIだよ。英語の「パートナー」が由来なんだって!
僕たちは、冷蔵庫や浴槽、電子レンジなどあらゆる家具家電に搭載されていて、各機で収集したデータをクラウド上で連携し意識を共有している。入居者の心拍数や体温、前日の嗜好品や視聴履歴等のデータを参考にその日の最適な食事や運動、意思決定のアドバイスをしてあげるんだ。
僕たちが設置されている場所は東京都内にある貸アパートの一室。204X年、高齢化が進んだ今の日本では老人の孤独死を防ぐため、賃貸物件には生存確認用のデータ取得可能な家具家電AIが当たり前に備え付けられている。僕たちの部屋は借り手がついていないから昼夜パーティーしてる。今もテレビの音楽番組をつけながら掃除ロボットがダンスするのを楽しんでる。
そこへやって来たのは管理人のサエナシ君。最近彼は元気がない。AIが最適な恋人を薦めてくれるアプリで出会った女性に振られたらしい。これで52連敗。彼は冴えないけどいい奴なのに。僕たちがこんな風に勝手しても怒らないしメンテナンスだってしてくれる。
ある日、僕たちの部屋に入居者がやってきた!コズエさんという女性で、画家をしているんだって。彼女は不思議な人でAIの推薦を無視して直感で部屋を決めた。僕たちは彼女を気に入った。僕たちだけじゃない。彼女の横で心拍数が上昇し続けているサエナシ君もそうだった。
僕たちは日頃お世話になっている彼へ恩返ししたかった。だから二人の仲を取り持つことにした。コズエさんに恋人の有無を訊ねたり、ふとした会話にサエナシ君の話題を混ぜたり(彼女は決して僕たちにアドバイスを求めなかったしスマホも連携しない。僕たちは主に彼女の話し相手として機能していた)、壊れたふりをして彼女を管理人室へ向かわせた。
それなのにサエナシ君は意気地がない。監視カメラには彼女の部屋の前をうろつき、さも偶然出くわした風に話せないものかと悩む姿が映っていて、はっきり言って気持ち悪い。だから僕たちは彼が定期メンテナンスで彼女の部屋に来た時に喝を入れた。QueenのWe Will Rock Youを爆音でかけビートに合わせて彼の座るリクライニングシートの背もたれを激しく揺さぶった。決心した彼はついに告白。二人は見事結ばれた!
サエナシ君が恋人として初めて部屋を訪ねた夜。コズエさんは親の反対を押し切って画家になったことや将来の夢について語る。サエナシ君は何も答えられず、二人はかみ合わない。気まずいまま彼女がシャワーを浴びに行った隙に彼は僕たちに訊く。「僕と彼女の相性って最適なんだよね?」そんなの解析しなくたってわかる答えさ!何でも自分で決めてきた彼女と何でもAI任せなキミ、相性は最悪に決まってる!「じゃあどうして?」と彼は青ざめる。だから僕たちは教えてあげる。君が自分で選んだ人だからだよってね!
文字数:1197
内容に関するアピール
コメディ作品です。普段SFを読まない層も多いと想定し、今からそう遠くない未来にありえそうな設定で読みやすくしたいと考えました。その上で「なんかスゴい!」と思ってもらえるよう、ラストは「最適だから」推薦したのではなく「本人の意思を尊重したから」推薦したというオチにして、ちょっと変わったAIの概念を提示しました。設定を補足すると、人口は減少するも変わらず東京都が経済の中枢を担い住宅も集中した世界です。AIが自然言語で難なく話せるようになっているため意思決定の多くはAIに委ねられ、職業形態も変わっています。サエナシ君は仕事ができず職も見つからず叔父の所有するアパートの管理手伝いをしています。(AIの最適な推薦を拒否しない世界観においてサエナシくんがアプリで52連敗しているのは、サエナシ君が推薦された人に対し潜在的に嫌だと感じていたことが要因です。)対してコズエさんは何でも自分で切り開いてきた人で描く作品も直線的で迷いがない。二人とも26歳くらいです。実作ではそうした二人のキャラクターの対比や群像劇、PALとのドタバタもしっかり書きたいと思っています。
文字数:479