梗 概
宇宙の果てからこんにちは
ふとした不注意な発言で、マタニティーブルーぎみの妊娠5ヶ月の妻を怒らせてしまった。一言も発しなくなった妻との関係を修復するため、かつて妻が発した「なぜ生命は生まれたのだろう」という言葉を思い出した私は、妻と『宇宙の果て』へ向かうことを決意する。
『宇宙の果て』と言っても470億光年の彼方ではない。それは子供の頃、同級生の『彼』(その頃習い始めたばかりの英語の影響で彼と呼ばれていた)と行った山の中にある巨大な庭園のような場所のことだ。その場所に向かいながら、私は妻に『彼』とその庭のようなものについての想い出を語る。
その巨大な庭のようなものは実業家であった『彼』の祖父が造ったもので、宇宙の中心であると同時に最果ての塵芥である人間に、そのことを意識させるための場所であった。クォーターでいろんな意味で回りと違っていた『彼』はこの場所が好きだった。「これは祖父のマンダラでありゼンであるんだ」と『彼』は語り、遠い目をする。今振り返れば『彼』は自分が何者であるかについて悩んでいたのかもしれない。そんな想い出を語るうちに妻の様子にも何か改善が見られる気がする。私は想い出話しを続ける。
『世界の果て』に夕暮れが訪れ、星々が見え始めると、『彼』はぽつりぽつりと昔の人々が星々の世界をどう考えていたかについて語ってくれた。夏休みになったら、ここでキャンプをし一緒に銀河を眺めよう、と約束してその日は帰路についた。しかしその後間もなく『彼』は両親の都合で海外へ行ってしまい、その後二度と帰らなかった。以上が『彼』と『世界の果て』についての想い出である。妻はじっと聞いていた。
そんな妻の様子を見て調子に乗った私は、途中妻に「帰る」と言われ窮地に陥ったりするが、なんとか『宇宙の果て』に辿り着く。しかしそこは一面の荒れ地であった。妻は呆れ顔、私は絶望に沈む。だかそこへ初老の男が現れる。男は『宇宙の果て』の管理人で、主人公のことを覚えていた。
「ちょうど今いらしています」と男は語り、わずかに整備された場所へ案内してくれる。そこにはインターネット用のカメラとスピーカーが置いてあった。男が英語ではない何か外国語でカメラに話しかけると、スピーカーからたどたどしい、どこか懐かしい言葉が響いた。「ああ、ああ、わかります、わかります、こんにちは、こんにちは!」
こうして私は『宇宙の果て』で『彼』と再会した。妻と和解できたどうかは分からなかったが、良い方へ向かえている気はした。産まれてくるであろう子供と、いつか再び対面するであろうかつての友のことを思う。子供が生まれたら『彼』に手紙を出そう。宇宙の中心であり、最果てである場所で、ともに生きるともがらとして。
文字数:1117
内容に関するアピール
照英社の稲松なる面識のない人物から突然送られてきたメールを流し目で読み終えた私は、ふぅとため息をついた。
その文面からは、送り主の私に対する低い評価が手に取るように分かる。この作家は今までもそしてこれからも未来永劫取るに足らない書き手であり続けると、それが既に定まり終わった当然の事実であるかのようにそのメールは語っていた。枯れ木も山の賑わい、外れクジもクジ、という訳だ。いっそ無視してしまおうか。いや、どんなに細い道でも道は道だ……私は気を取り直し、返事を書き始めた。
稲松さま
今回はご依頼下さりまして、大変ありがとうございます。
学生の頃から拝読させていただいていた小説つばる様からこのような申し出をいただき、
たいへん感激いたしました。とても光栄に存じます。
早速ですが梗概の方をお送りさせていただきます。
デビュー作で誤解されがちなのですが、私が書きたいのは笑いあり涙ありの、
どなたにでも分かりやすいハートウォーミングなエンタメ小説であることが、
この梗概で理解していただけるものと思っております。
もし何か問題がありましたら付け足し削除修正等何でもおっしゃってください。
どうか是非何卒ご検討の方よろしくお願い申し上げます。
西岡京拝
文字数:512