梗 概
パーフェクト・リゾート
操縦士のカイリと研究者のキルは、搭乗していた宇宙船が故障したため、近くの惑星に降りようとして転送中に気絶する。目覚めた二人は、降下したのが、嘗て植民星開発が活発だった時代に「天国にいちばん近い星」と呼ばれたリゾート星、ツバルだと知る。
二人は一時ツバルの生活を満喫するが、故郷で刺激的な生活を享受していたカイリは帰りたいと願う。しかし集落には境界線があって越えられず、外界への乗り物はない。二人の宇宙船も炎上したとのことだった。
生活に馴染み、言葉も理解していったキルは、住人からある噂を聞く。集落の境界線付近に賢人がいて、住人らが持たない知恵を持っていると。カイリの希望で賢人に会いに行った二人は、相手にさまざまな疑問をぶつけて事実を聞いた。
賢人曰く、ツバルは観光収入で成り立っていたが、環境破壊により汚染され、また小惑星に削られ、回復不能に陥った。遺伝子改変で美しくデザインされた動植物は脆弱で、環境変化に適応できない。政府はツバルに見切りをつけ、分散して宇宙船に乗り、移住先を探していたが、条件の良い場所は見つからなかった。
やがて住民のストレスが最大限になり、船内の統制が効かなくなった時、エンジニアであった賢人は居住星が見つかったことにし、住人の肉体を眠らせて意識は仮想空間のツバルに住まわせた。賢人は難破していた船からカイリとキルを救い出し、二人の肉体を船内に保管、意識を仮想のツバルに移行させたという。
故郷に戻りたいカイリは、意識を肉体に戻し、帰還用の宇宙船を与えるように依頼する。賢人が余分な宇宙船はないと断ると、カイリは賢人を脅迫して針路を変更させようとするが、賢人の力には叶わない。カイリの意識を消去した賢人はキルを慰める。秘密を知った彼女は、賢人と共に住む道を選ぶ。
ある時賢人は、ツバルほど恵まれていないが、定住可能な星を見つける。移住先を見つけたと喜ぶ賢人をキルは拘束し、告げた。この船を着陸させはしない。恩を仇で返すのかという賢人の質問にキルは、目的のために人を利用するあなたは恩人ではないと告げる。
キルは、この星のテクノロジーでは、カイリとキルの肉体を修復・保全する技術はないことから、身体的には死亡して既に肉体はないことを知っていた。賢人は、二人が所有していた外界の知識と情報が目的で救ったのだった。キルはまた、移住先に到着すれば、自分が仮想のツバルごと廃棄されることも理解していた。
彼女は賢人に伝える。ツバルの住人は、居住星が見つかっていなかった事実にうすうす気づいていて、肉体的な困難や苦しい労働から解放された現状に満足している。あなたのつくったかりそめの理想は本当の理想になり、知らないのは作者だけだと。それは住民と適切な交流をしていたキルの得た事実だった。
キルは賢人の意識を消去し、仮想のツバルの永遠の管理人になる。
文字数:1174
内容に関するアピール
小説つばるから依頼をいただいたので「つばる」で検索すると、美しい海の画像が並びました。また「つばる」と聞くと沈没の話が思い浮かんだので、海に削られる島の話を考え、SFとして宇宙に消える星と人々の話になりました。
小説つばるの読者層がゲーム等で経験しているであろう仮想空間が舞台となる話ですが、ユーザーが仮想空間に依存しすぎた場合、裏方の制作側や保守運用側はどういう立場を取るかという、現実的な疑問を未来に移植した話でもあります。
賢人は、自分は全ての事実を知っていると思っていますが、実は誰よりも現実が見えていませんでした。理想の仮想現実をつくった彼は、成果物は素晴らしいが相手の要望を汲み取れないエンジニアです。一方キルは、ユーザー目線で要望に応えられるエンジニアです。
ただ、使い手の言いなりでは運用自体が破綻することも多いので、キルの本当の試練は管理人になった後、話の外にあると思っています。
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