梗 概
エリカをさがして
人間が宇宙のあちこちの星に住み、宇宙船で行き来するようになった時代。
青年ハルは、窃盗を目的に大富豪の老婦人が住む邸宅に忍び込む。
主の老婦人に見つかったハルは、見逃してもらうかわりに、邸宅から消えたロボットの捜索を引き受ける。消えたロボットは、老婦人の亡き娘・エリカを模してつくられたものだった。
捜索を始めたハルは、老婦人の孫娘・ジェーンと知り合う。ジェーンは、幼くして宇宙船事故で死んだはずの老婦人の娘・エリカの子供だった。
実はエリカは、つい最近まで生きていた。事故後、長い間彼女は亡くなったものと思われていたが、事故のせいで記憶を失い、身元不明の子供として別の夫婦の養女となっていたのだ。三十年前にその事実が判明し、老婦人とエリカは実の親子として再会を果たしたが、なぜかその後は二度と会うことはなく、一年前にエリカは病死したという。
ジェーンは祖母である老婦人の体調が芳しくないことを知り、彼女を見舞うために訪れていた。ハルはジェーンとともに、ロボット・エリカの捜索を続ける。
当初、ロボット・エリカの失踪は、生体部品の老朽化による誤作動によるものかと思われた。だが、捜索を進めるうちに、邸宅から老婦人の宝飾品がなくなっていることがわかる。さらに、ハルとジェーンが何者かに襲われる。
二人を襲ったのは、ロボット・エリカのメンテナンスを担当するメーカーのサービス員だった。彼は、偽の記憶をロボット・エリカに入力することで意のままに動かし、長期間にわたって老婦人の宝飾品を盗ませていたのだ。
ハルとジェーンはロボット・エリカを発見するが、ロボットはすでに機能を停止していた。
老婦人が危篤との連絡を受けて、ハルとジェーンは邸宅にかけつける。老婦人はジェーンの手を握り、娘エリカの名前を呼んで息を引きとる。
ジェーンはハルに語る。
三十年前、ジェーンの母のエリカは、実母である老婦人に再会した。しかしそのとき、老婦人はエリカを娘だと認めることを拒否したのだという。
老婦人は事故以来、失った娘に対する愛情をロボット・エリカに注いできた。しかし、再会した本物のエリカは、成長して見知らぬ女性となっていて、ロボット・エリカとはまったく似ていなかった。老婦人は、容姿・人格ともにロボット・エリカとはまったく異なる姿に成長したエリカを、かつて失った自分の娘だと認めることができなかったのだ。そして、二人の間の断絶はついに埋まらなかった。
ジェーンは、老婦人が残した莫大な遺産の相続権を放棄して、父親や祖父母が待つ故郷の星へ帰っていく。
文字数:1062
内容に関するアピール
主人公が謎を追う展開であれば、普段SFにあまり親しんでいない読者にも興味を持ってもらえるのではないかと考えました。
また、メインのSF要素として、デジタルクローンを取り上げました。
主人公はデジタルクローン(ロボット)捜索を通して、老婦人がデジタルクローンにすがるあまりに、ほかの人々と実のある関係を築くことができなかったことを明らかにします。最後は、デジタルクローンによって与えられる虚構に固執し、現実と向き合うことを拒み続けた老婦人が、孤独な死を迎えます。
文字数:230