いつまでもあなたを見ている

印刷

梗 概

いつまでもあなたを見ている

◆概要・設定

ある女に起こるできごとが、女が住む家の視点から、女を「あなた」とする二人称で語られる。女の親族が代々住んできた築100年ほどのその家に、女は生まれたときから住まう。

◆全体の流れ

「あなた」の幼少時からのエピソードが家により語られる。誕生後初めて家にやってきた日、言葉を話した日。離婚により父親が出て行った日(小学生)、恋人を家に連れてきた日(中〜高校生)など。家は成長していく「あなた」をじっくりと観察している。子や孫への愛情と同質の温かな視線にも見える反面、時折ストーカーのような粘着性も覗かせる。家は古いためにときどき「家鳴り」がする。「あなた」は小さな頃からそれを聴くとどこか安心する。

両親の離婚以来、母とふたりきりで暮らすようになった「あなた」。その母が病気で亡くなると、20代前半の「あなた」は広い家でひとりぼっちになる。母との思い出が残る家で、家鳴りを聴きながら「あなた」はますます家に心を寄せる。

同時に「あなた」は、母の存命だった頃から家に出入りしていた、10ほど歳上の植木屋の男と親しくなる。傷心の「あなた」に植木屋は優しく、そのうち仕事のないときにまで家を訪れるようになる。家は、家と「あなた」だけの生活に水を差す植木屋を警戒するが、結局彼は家に住みつくようになる。「誰もいないのに音がする」と家鳴りのことを植木屋に指摘されると、「あなた」は「生きているみたいでしょ」と柱をさする。

優しかったはずの植木屋は、同居を始めてから「あなた」に暴力をふるうようになる。植木屋を失うのは辛く、葛藤する「あなた」。精神的な孤独を深め、家で柱をさすりながらひとり物思いにふけることが増える。

植木屋は、自分の介在できない過去に心を囚われつづける「あなた」が気に入らず、過去の象徴である「家」を憎み、転居を提案する。受け入れられない「あなた」は、初めてはっきりと抵抗を示し、ひどく殴られる。その夜中、「あなた」は家を出て逃げる。「あなた」の不在に気づき動揺する植木屋を、じっと見つめる家。激しくなる家鳴り。植木屋は苛立ち、屋根裏を覗きに入る。

やがて「あなた」が帰宅したときには、植木屋の姿はない。彼が脱いだままの服や飲みかけのマグカップがそのままになっている。「あなた」は屋根裏の入り口で、植木屋の手の小指を一本見つける。なぜか切り口まで肌に覆われ血や肉は見えない。「あなた」はそれを大事そうに握りしめ、家の柱をさする。

◆描写時の視点について

家は住人の心中がわかる(描写できる)。その深度は家と住人の親しさの具合に準ずる。例えば「あなた」やその母に対しては家が親しみを抱いている(彼女らも家に親しみを抱いている)ため心情がよくわかる。母の死後は、家と「あなた」の心の距離がますます縮まり、描写においても両者の同質化が加速する。植木屋と家は親しくないため、心中の描写は深くはなされない。

文字数:1197

内容に関するアピール

ふだんSFを読まない人に読んでもらうということで、現実との接着点があるものを、とまずは考えました。

そこから、展開のしっかりしたエンタメ性のあるものを用意しようといろいろ考えてはみたのですが、どれもしっくり来ず、結局自分の作風に一番合ったものになりました。これもSFでOKだとよいのですが……。

無理やり今回のお題とつなげると、やはりSFは範囲や定義づけが難しいなと感じています。最近『紙の動物園』を読んでみたのですが、「サイエンス」要素があまりなかった気がして、これもSFなんだなあ、と思いました。それでこの際、ふだんSFを読まない読者に、「これもSF」という周縁の部分を見せるのも面白いのかなという思いもあります。

家の「私」という人称を出すかどうか少し迷っています。

文字数:333

課題提出者一覧