梗 概
友田君の家
友田一家が手に入れた小さな家は異次元空間を彷徨う罠だった。家族三人で暮らす念願のマイホームだったのに騙された。この家から逃れるためには他の誰かを騙して交代してもらうしかなかった。
澤村肇は庭の梅の木を見ている。花が咲きまた新しい年になったみたいだ。この家に来てから何年が過ぎ去ったのだろうか?と肇は回想する。
初めてこの家に来たとき肇は小学三年生だった。転校生の友田君と一緒に夏休みの宿題をやる約束をしたあの暑い夏の日、山間の道を歩いて来た。
そうだ、ここは友田君の家だ。時々思い出してこうやって日記に書かないと忘れてしまう。肇は記憶をとどめておくために日記を書き続けた。
転校生の友田君の家は村はずれの山の麓の竹薮に囲まれた小さな家だ。玄関をあがるとすぐに小さな台所があって、その隣に六畳の部屋、その隣に四畳半の部屋、それだけだ。便所と風呂は外にある。あの夏の日、肇と友田君は四畳半の部屋で一緒に夏休みの宿題のドリルの問題を解いていた。友田君のお父さんとお母さんは畑に行っている。蝉の声と扇風機のガタガタ震える音しか聞こえない暑い夏の日の午後だった。友田君が「便所に行ってくる」という声を残して部屋から出て行った。肇はドリルに集中していて、ふと気がつくと夕方になっていた。
友田君は戻ってこない。蝉の声がヒグラシに変わり空は茜色に染まっている。肇は家に帰りたくなった。暗くなる前に帰らないとお母さんに叱られる。肇は庭に出て便所に行ってみた。そこに友田君はいなかった。太陽は山に沈み空は茜色から群青色に、そして満天の星空になった。肇は四畳半に戻ってドリルと筆箱を手提げ袋に入れて帰ることにした。
友田君はいない。友田君のお父さんもお母さんも畑から帰ってこない。黙って帰るのは、いけない事かもしれない。と肇は思ったけれど家に帰りたかった。しかし、肇は家に帰ることは出来なかった。
友田君の家は周りを全部竹薮に囲まれていた。肇が歩いてきた道は消えていた。肇は大きな声で友田君を呼んでみた。返事は無い。聞こえてくるのは秋の気配を感じさせる虫の声だけだった。
家に帰りたい。肇は哀しくなって涙が出てきた。夜の暗闇が染み込んだ竹薮の中を肇は泣きながら歩き回ってみたけれど歩き疲れて辿り着くところは友田君の家だった。
肇は友田君の家に捕まってしまった。そして季節は何度も変わった。幸いなことに食べ物は時々舞い込んできた。まるで、蜘蛛の巣に獲物がかかるようにして。肇はそれを食べた。
その家は空き地に突然現れた。住民からの通報を受けた交番の巡査はその家に踏み込む。家の中にはミイラのような男がいて巡査に飛び掛ってきて巡査の左腕を食いちぎった。巡査は拳銃を発砲した。壁と床と天井に日記のような文章が書かれている。同じ文章が血の文字で何度も何度も。そして、床には人骨が散らばっている。
ミイラのような男は何も語らず動かなかった。
文字数:1206
内容に関するアピール
稲松様
いつもお世話になります。夢想です。
小説つばる三十周年おめでとうございます。素晴らしい企画にお声をかけていただき至極光栄でございます。
御誌読者の方々にはSFにあまり接していない方も多いかと思いまして、このような梗概にしてみました。
自分で言うのもなんですが、いい感じの梗概に仕上がったのではないかと自負しております。とはいえ拙い梗概では不明な点も多々あるかと思います。実作はSFホラーサスペンスに家族小説風味を加味して、必ずや御誌読者の皆様方に、ご満足いただけるような短編小説に仕上げるよう、全身全霊を注いで書き上げる所存でございます。
編集部の皆様の許可をいただけるよう、お力添えのほど何卒よろしくお願い申し上げます。
夢想真
文字数:315