工場長は星鳥予報士だという。また、地球に来て五十年以上たったと言うが、どう見ても三十台後半以上には見えない。髪を白く染めることを提案するが、地球人に擬態した時に変身能力は失ったのだと工場長は首を振る。なにも本人の能力だけで髪を白くしろと言ったわけではないのだが、工場長との会話にはいつもどこかずれがあり、私はそれを気に入っていたので訂正はしない。

田舎町の小さな印刷会社で働く工場長は、出来上がる印刷物の中へ密かにメッセージを仕込んでいる。それはこの星に来たはずの仲間たちへ向けての呼びかけ。地球人には認識できない色の変化で工場長たちは会話する、らしい。返事が来たという話は聞いていない。どうしても徹夜しなければ仕事が間に合わないようなとき、工場長はそんな話をする。

なんとか納品に間に合いそうな目途が立ち、深夜二時の星空を見上げながら並んで缶コーヒーを飲んでいるときだった。
　
「僕は妻を探しにこの星へやってきたのです」

突然の告白に、私はどう反応すればいいのかわからなかった。
　
「星鳥のことは以前にもお話ししましたね」
「星をわたる巨大な鳥のことですね。工場長はその渡り鳥の予報士だとか」

私は笑ってみたが、工場長はまじめな顔で星を見つめ続けていた。
　
「五十年前、星鳥が地球へ飛来するという予報が出たときには、それはもう大騒ぎでした。なんせ地球人はまだ僕らと同じ知性群に属していなかったのですから。星鳥がそのような星へ向かうというのは前例がありませんでした。その頃の地球ではまだ星鳥が好むような高いエネルギーを生み出すことはできないはずでした。しかし星鳥は未来を生きています」

工場長は振り返り、何でもないことのように私を抱きしめた。インクのにおいがした。私は工場長の後ろに広がる空に、いくつもの流れ星を見た。流れ星を見たのは初めてだった。それは何かのメッセージのように思えた。そして、工場長の「起動」というひとことで私の体は巨大化し、星鳥捕獲マシーンと化した。工場長は星鳥ハンター、いわゆる「星捕り」でもあった。星鳥から星を守れてこその星鳥予報士。私は工場長が生み出した戦闘機。

戦闘機の機能を解放した私は星の雨の中から一筋の火球が軌道を変えるのを捕捉した。長い尾の輝きが夜を彩る。巨大な影が街を覆う。私は工場長とともに空へ浮かんでいた。
　
「ずっと待っていたよ」

工場長が思ったことを私の体が増幅し星鳥へ向けて発信する。星鳥が鳴く。地球人の体の工場長は私を通してその声を聞く。これほどまでに美しい音を私は今まで知らなかった。

工場長が操縦桿を握り、私たちは星鳥を越える速さで地球を巡る。星鳥たちは私たちに惹き寄せられ光の群れを形成する。地球に光の輪が生まれる。そしてそのまま第三宇宙速度を越え、私たちは星鳥を新たな星へと導いていく。いつか星鳥の音楽にこの星が応える日はくるのだろうか。彼の奥さんが美しく歌っていた。