トランシーバーをはこぶ猫

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梗 概

トランシーバーをはこぶ猫

定年退職で社宅を出た電気技術者は、おばけ屋敷と呼ばれるあばら家を借りた。物件写真に不思議な光が写り込んでいたが、光学的な問題だろう。誰もいないのに物音がするのは、傷んだ家屋が軋んでいるだけだ。
 裏庭に迷い込んできた猫を飼い始め、球形ロボットを買い与える。プログラミング教育玩具で、ネズミのような動きをさせていた。ところが、ときどきプログラムと関係なく、狂ったように暴れる。直らない球形ロボットをフリマアプリで売い払い、猫じゃらしを振って遊ぶようになり、猫は技術者の唯一の友人になった。
 マッチングアプリで自分の交際相手を探すが、メッセージのおじさん文体を気持ち悪がられ ^^; 相手が見つからない。心の交流にテキストは適していないと考え、二台一組のトランシーバーを買ってきて、脳波を送受信できるように改造を始めた。非モテの逃避である。
 ある日、誤ってトランシーバー回路をショートさせてしまい、技術者の脳活度が停止。思考が電極を伝って、トランシーバーのアンテナから放出される。技術者はブラウン運動に紛れて思考する知的生命体「霊」になる。
 あばら家には先輩の霊がおり、移動のしかた、拡散・消滅しないコツ、ネイティブの霊は気性が荒いなどを教わる。物件写真の映り込みも、先輩の思考によって発生したプラズマが原因だった。
 技術者は、猫が生活に苦労していることを知り、助けたいと思う。先輩に相談すると、憑依して生き物を操れるが、数週間でいずれかの精神が止まるか、両者の精神崩壊が起こるという。主人公は「猫に憑依して、シェルターに保護してもらった後、残った一台のトランシーバーで自分の精神を脱出させる」という計画を立てる。
 猫に憑依し、トランシーバーを首から下げ、道路に出て、横断歩道を渡り、苦難をくぐり抜けて、保護猫カフェの裏口に到着。しかし、うろついていた悪徳ペット業者に捕まりそうになる。
 そのとき、近くのゴミ捨て場から、球形ロボットが飛び出してきて、狂ったように暴れまわり、悪徳ペット業者を追い払った。むかし売り払った、球形ロボットだ。
 球形ロボットのニューラルネットワークチップには、霊が憑依していた。ブラウン運動するネイティブの霊として生まれたとき、うっかり憑依して抜け出せなくなった。猫との生活を楽しんでいて、売られた後も懐かしんでいた。モーターや回路にガタがきて捨てられたところ、目の前に猫が現れたので助けた。そういうことを教えてくれた。
 球形ロボットに憑依した霊は、猫の命の恩人だが、このままでは機体の破損とともに消滅してしまう。
 技術者は、球体ロボットにトランシーバーを接続してショートさせ、ネイティブの霊を開放する。技術者は猫に憑依したまま、無事に保護される。そして、猫の自我だけを残すため、技術者は自分の精神活動を減衰させて、眠りにつく。

文字数:1172

内容に関するアピール

幽体離脱的に肉体を失い、精神だけの世界に行ってしまったら、というコンセプトです。あえてVRやメタバースではなく、物理的な制約がかかる環境を想定しています。

「憑依からの脱出は1回だけで、自分か他人のどちらかしか救えない」という状況を作るため、改造トランシーバーを設定しました。

球形ロボットの実物を所有しています。カメラやLEDがついてますが、単純なロジックで動くだけで、ニューラルネットワークはありません。ただ、無理な動きをさせるとジャイロセンサーが狂うらしく、暴れまわります。

猫SFの特集があるときは、ぜひお声がけください。がんばります。(ΦωΦ)ノシ

文字数:276

課題提出者一覧