欠けた空を継ぐ

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梗 概

欠けた空を継ぐ

見上げる空には、継ぎ目があった。
主人公・レドの生まれ育ったドーム都市は、半球状の天井に覆われており、その天井に「空」の映像が投影されている。半球は多数の部材で作られており、肉眼でもそれと分かる継ぎ目が見え、故障の際には「空」の一部が欠けてしまう。
レドは幼い頃、歳上の少女と知り合い、彼女の描いていた絵に「継ぎ目のない空」が描かれていることに気づいた。「そんな空は変だ」と言ったレドに、少女は「本物の空には、継ぎ目なんてなかったんだよ」と諭すように言う。かつてヒトが生まれ育った土地では、継ぎ目のない空を見ることができたのだ、と。レドは、少女の語る「本物の空」の話、そして彼女自身に惹かれていくが、少女は「本物の空を見る方法を見付けた」と告げ、姿を消す。数日後、天井から落下して亡くなったという訃報が届き、彼女の描いた絵が形見として残された。

レドは空に関わる仕事を志し、成長して「空継ぎ士」となった。ドーム都市の天井の故障を修理し、空の欠け目を直す仕事だ。
修繕作業の最中、彼は天井の隙間に巧妙に隠された手紙に気付く。そこには、かつて亡くなり、レドが歳を追い越してしまった少女の名が記されていた。
「天井は、人々を守るための外壁だと言われているが、実際には人々を閉じ込めるための檻である」。手紙には、そう書かれていた。継ぎ目のない本物の空は、目と鼻の先、この偽りの空の向こうにあると言うのだ。
陰謀論に思えるその手紙は、本当に彼女からのものなのか。歳月が経って、なぜ他ならぬレドが見付けるに至ったのか。
レドは、彼女が亡くなった当時の、天井の管理記録を調べていくが、一部が黒く欠けた「空」のように、彼女の死に関する記録は抜け落ちていた。疑念を抱いたレドは、「天井の向こう側」へ行くための計画を立てる。
だが、空継ぎ士としての技能を活かし、天井に穴を穿ったレドが向こう側に見付けたのは、また別の「天井」であった。戸惑うレドの前に武装した集団が現れ、レドの開けた穴から彼の故郷へと降下し、襲い掛かる。
命からがら戻ったレドは、「天井」は本当に故郷を守っていたこと、そして、自分がその守護を破ってしまったことを知る。レドの住んでいたドーム都市は、より巨大なドームの中の一角。数少ない資源を巡る争いから身を守るため、強固な壁として築いたのが天井だった。レドが内側から壁を壊し「天井の向こう側」に立ち入ったことは、「資源を奪い取るため」と解釈され、開戦の口実まで与えてしまっていた。

レドが見付けた少女の手紙や、事故の記録の改竄は、内通者により偽装されたものだった。

辛うじて敵は退けられたものの、故郷を戦火に巻き込み、居場所を失ったレド。贖罪のため、そして幼き日の思い出を利用されたことへの復讐のため、旅立つ。自分が壊してしまった故郷の空を、自らの手で継ぎ直すと誓って。

文字数:1172

内容に関するアピール

「生まれ育った場所を離れる」という課題を読んで、「作られた空の下で、本物の空を見にいきたいと誓う少年達」という、以前に検討したモチーフが思い浮かびました。投影された空、薄らと入った線が作り物であることを示す……というビジュアルが気に入っており、その下で「本物の空」の絵を描いている少女、というのが着想にあります。
「本物と偽物」のほか、「ルーツ探し」のテーマを入れました。平素は「本物を見にいきたい」という動機を設定することが多いのですが、より自分の創作のルーツに近い物語は何かを考え、「禁忌に触れる」「贖罪のための旅立ち」を要素として含めました。

半球状の天井、としていますが、地面に近い部分は一般市民は立ち入れない想定です。そもそもなぜ継ぎ目があるのか、地面から継ぎ目が見えるのか、などについては、整備を生業とするようになった主人公の視点から、その理由の説明ができればと思っています。

文字数:392

課題提出者一覧