第四次元が呼んでいる

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梗 概

第四次元が呼んでいる

墜落した飛行機から死体が一つもあがらない? そんな落下者の消失現象「神隠し」が相次ぐ世界、証拠映像はネットの海に垂れ流され、多くの有志たちの解明の試みも全て座礁する始末。

疑似科学系ネットメディアのライター東郷玲もその有象無象の一人だ。会社に神隠しの案件を任され、真相を知る男(ある新興宗教団体の幹部)に接触。男は語る。あらゆる生命は高次元存在の三次元空間との接点であり、神隠しは生命の三次元世界からの離脱により発生すると。男は紙ナプキンで実演。紙面(二次元世界)に二本指を立てれば、その世界の住民には二つの別個の生命に見える。だが二本の指は空中(=高次元)で繋がっている。同様の理屈が三次元生命にも成立し、何かの拍子で指が紙面から離れると、その生命が三次元世界から消える――すなわち、神隠し。高次元存在の証明は不可能だが、存在の仮定が説明を易化させる事象も数知れずあると。男は「俗世三次元世界から離れての上位存在への統合こそ〝救済〟」と熱く語るが、神隠しに父を奪われた玲には飲み込みがたい。玲は突っぱねて席を後に。

父の失踪が今の玲を作った。生態学者の父は、助教授の任期満了後に無職となり親族に責められていた。その件で母と喧嘩した翌日の失踪だから、親族誰もが夜逃げと決めつけた。玲だけが神隠しの瞬間を見ていたが、当時小学生の彼の発言は信用を得られず、父の名誉挽回こそ玲の目的となっていたのだ。

宗教団体の勧誘を振り切った玲だが、独自調査も進展なく苛立ちが募る頃、宗教団体の〝救済〟実演予告がSNSでバズる。有志らが求めた神隠し発生の規則性に基づくとのことだ。飛び降りたのはファミレスで会った男。だが〝救済〟は彼に訪れない。真紅の花が地面に咲く。

そのショッキングな映像は神隠しの話題をタブー視させた。会社も案件停止を決定。玲は別案件に回されるも上司に反発。だが、上司も元は現場の人間であり、父の失踪を調べられ動機を見透かされる。証拠はあるかと食い下がる玲に、生態学者として父が失踪前に記しリジェクトされた論文を上司は突きつける。それは生態系における群れに見られる奇異な行動パターンの数々を、高次元存在の仮定により理論的に説明するものだ。大本の手が同じであれば指と紙の接点(=生命)らは高次元で繋がっており、見えない力で相互作用する――同じことが現実の生態学的現象に見出されると。自説証明のために身を捧げのだと玲は推測するも、どうして父は神隠しに成功したのかは分からない。実家に戻った玲は父のPCから生態学的な特異点=神隠しの発生予測プログラムを発見。検証すると、高精度で神隠しを予期していた。

玲は会社の公式SNSアカウントを乗っ取り、神隠しの実況中継を予告。バズる。上司らは玲が犯人と断定し追跡するも、逃げおおせた玲は中継を始め父の学説を提示し、屋上からダイブ。

果たして、玲の遺体は見つからなかった。

文字数:1200

内容に関するアピール

生まれ育った三次元世界を離れる現象が一般に認知されている世界で、それが科学的ないし宗教的に多様に解釈される中で、各々がその「離脱」(=神隠し)に対して向き合い方を模索する話を考えました。自らの学説を示すためか、救済を求めるためか、父の雪辱を晴らすためか、それとも自らの正当性を証明するためか。神隠しという事象に対する玲の向き合い方の変化や葛藤を楽しんでいただけるような実作にしたいです。

梗概には詳細には書けなかったものの、実作には神隠しに対する向き合い方の多様さを描くのみならず、(高次元存在そのものを出すことが望めるプロットではないですが)その存在を支持する科学的考察や宗教的解釈を散りばめていきたいです。生命と高次元存在の関係は細胞と多細胞生物の関係と捉えて頂くのがイメージしやすいと思いますが、人によってはそれを神と理解する方が楽なのかもしれません。

文字数:378

課題提出者一覧