梗 概
魔法の紙、不思議なコインのクロニクル
第一話:発症期 2028年:東京丸の内、ある証券会社にて。個人投資家向け営業の伊知郎は、体調の異変を感じていた。伊知郎は、新卒から勤続30年、証券マンとして働き続けてはいたが、出世する同期・後輩を尻目に、近年盛り上がってきた純資産家向けの投資を担当。今日は、投資したスタートアップが上場し、13億円の資産を手にした顧客に運用計画をプレゼンする重要な日なのだ。何度も上司と繰り返したプレゼンを再度反復しようと資料に目を通す。が、言葉が頭に入ってこない。想定台本を読み上げることはできるのだが、音として発することしかできない。「やばい、集中しろ、集中しろ」と念じ、一文字一文字読み上げるのだが、数字特に金額に関する記載が一切頭に入ってこないのだ。アポイントの時間が迫る、伊知郎は不安を抱えながら、顧客の待つ応接室に向かう。伊知郎はまだ自分が、貨幣価値を認知できない「貨幣盲」に罹っていることに気づいていなかった。
第二話:拡大期 2032年:双美は焦っていた。水商売で稼いだお金を投資に回し、13億円を原資として生活するいわゆるフルFIREで暮らし人生上がった。つもりだった。が、この数年で貨幣盲の蔓延により、株式相場は下落を続け、実質機能を停止している状態となっていた。高級家具に囲まれた双美のマンションに、電気配給会社からの職員が登場する。双美が電気を無断使用し続けているため、対価のために何ができるかを相談したいというのだ。水商売と投資しかしてこなかった私にできることがまったく思い悩む双美。すると職員の男が、ある提案を持ちかける。彼女には彼女にしかない価値があるのだという。
第三話:原始退行期 2040年:新三は集め続けていた、お金を。フィリピンで15年の刑期を勤め上げ、出所した暴力団員の新三は、凹田組(ぼこだ)に戻るとその様子は一変していた。警察が機能不全となる中、凹田組は地域社会の秩序と治安を守る自警組織としての称賛を浴びる存在になっていた。貨幣盲に罹っていない信三には、お金にならないシノギに精を出す組員たちと相容れることができない。孤立する中で、信三はみんなに見向きもされなくなった、お札・貴金属を集め始める。いつとも知れない貨幣盲が治癒した先の備えとして収集を続ける。
第四話:新秩序期 2100年:既に通貨を知らない人たちばかりとなった時代。子どもたちは公園に時々現れる老人から、「お金という何とでも交換できる紙についての不思議な話」を聞く。陽介にとって、お金にまつわる話は魔法のように不思議な話だった。ある日、陽介は友達の吾郎と弓香を誘って、幻のお金を探しに行く旅に出る。老人の話では、お金が隠されている洞窟が街のはずれにあるという。
文字数:1125
内容に関するアピール
連作短編形式。人類に貨幣価値を認識できない病が流行。一度罹ると治らないその病気がまず日本から感染が始まり、10数年をかけて世界に蔓延します。
当たり前ですが、お金の価値を感じられない、動物や幼児も同じ社会で生活している。一方で、物心ついてからはお金に人は執着し始める。
これって不思議な現象だなと感じたことがこの物語の発端でした。
4話構成で年代を分けて文明社会が退化し、新たな交換や価値づけが社会システムになる中で、その変化の中で人はどう行動するのか?を書いてみたいと思います。
文字数:237


