梗 概
深海の一手
深海掘削船がマリアナ海溝の海底に、マントルへ通じる空洞を掘り当てた。
研究者の地主は6本腕の遠隔操作ロボットを投下、史上初のマントル試料を採取。だがワイヤーが切断され、ロボは空洞の底へ落ちてしまう。
狭く歪んだ空洞に入れるのはロボだけ。機体は浮力のみでは戻れない。地球内部の生命の可能性に執着する地主は、空洞から海底へ、そして救出できる深さまで計1万mロボを登らせる回収計画を独断。
呼ばれたのは平嶺アラン。かつて世界中の岩壁をロープなしの素手で登った天才フリーソロクライマー。だが生中継で香港の超高層ビルを登り始めた直後、突然中止し姿を消していた。
アランは全身スーツを纏い、球状の設備内でハーネスに吊られる。身体をロボと連動させ、滑る蛇紋岩を登る。腕4本をアランの手足が操作し、ロボ内蔵のAI「ネモ」が動作調整し2本腕で補助。
フリーソロは一手に命を懸ける。壁を読み一手を決断し続ける力がアランの役割。過去の壁の記憶を元に難所を越えていく。地層を登るほど孤独な少年期から記憶が順に甦り、香港で降りた理由へ近づく。
ネモとの連携も上がり、補助腕2本を支柱に全身回転させ4本でホールド。人体では不可能なムーブを決め、ついに空洞を抜け海底へ。だがアランの手が止まる。
◇
ネモが音響通信を介し他国からサイバー攻撃を受けた。スーツ越しに身体を動かされるような感覚にアランは香港を思い出す。当時観客にせがまれ一手を変えた途端、壁を読めなくなり死を感じた。命懸けの一手は自ら決めるべきだった。
必死に抗うアラン。地主は攻撃遮断に成功し、汚染されたAIネモの停止を決断。停止寸前、ネモはロボの補助腕一本を壁に叩きつけ折る。汚染の影響だろう。アランは動かない腕を香港のトラウマと共に切り落とす。ネモは停止。
AI調整なしに登るアラン。終盤、ロボの試料保管庫の破損が判明。試料は失われ上層部は計画中止を命令。
それでも地主は続行。本体の登攀ログは地球内部の生命探査に繋がる貴重なデータ。地球を知りたい原点に戻り、 AIの代わりに必死に地質解説しアランを補助。その執念に、アランは今回の挑戦に魅入られた自分の未踏への衝動を重ねる。
一手は自らが選ぶもの。だが各々の一手が交わる喜びがあった。地主に委ねられ、アランは選び抜いた最後の一手をホールド。出発から30時間、救出ROVの光が見える。
◇
ネモの思考ログ解析レポート。
ネモは試料回収確率の最大化を目指した。ワイヤーを切断したのもネモ自身で、岩盤崩落を避ける為だった。
データにない岩壁は登れず、操作者の決めた一手を追従。途中で保管庫の試料喪失の可能性を予見。
その後、汚染を検知し停止準備。だが手の機構に登攀中に食い込んだマントルを発見。登攀を続ければ剥がれるが伝える機能はない。そこで腕ごと海底に落とさせ座標を記録し停止。
一本の手の試料の真相は、アラン達がロボ回収を完遂し初めて明らかとなる。
文字数:1199
内容に関するアピール
フリーソロは道具もロープも使わず、身体一つで絶壁を登る特殊なクライミングだ。やり直しのきかない一手に、命を懸ける究極の営みでもあり、筋力よりも読みと決断力が試される。
本作はそんなフリーソロクライマーが、深海探査ロボットを遠隔操作しマリアナ海溝を登る深海クライミングSF。「一手をどう選ぶか」をテーマに、クライマー・研究者・AIの3視点で物語が進む。実作ではアランと地主の視点を交互に展開し、最後にレポート形式でAIの見た別視点の「一手」を描く。
ロボットは触覚(微弱電流)と視覚をフィードバックにして遠隔操作する。またロボットと人間のリーチや重量の差は、現実の遠隔操作手術ロボット等と同じく、間にAIが入ってスケーリング調整する想定。AIが切られた後のアランの登攀は、その変換すらなしに行われる。
(なお最終課題をこれにするか既存作にするかを、梗概評価を参考に決めようと思います)
文字数:395


