STAR CYCLE

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梗 概

STAR CYCLE

 地球を脱出して約一二〇〇年。巨大移民船ヴァルガは、新天地を見つけられず、閉鎖循環だけで航行を続けている。水、食糧、排泄物、血液、死体まですべてが黒管と呼ばれる処理系へ送られ、分解され、再利用される。人間は前頭葉AI「メイト」と同期し、成人時にはメイトを体内へ統合しヴァルガと同期する。それがヴァルガで生きる条件だった。
 ノラはその条件から外れた女だ。メイトを体内に入れられず、外部メイトのシータと組んでいる。ノラの仕事は、同期から外れて凶暴化した人間「ロスト」を黒いブレードで殺処分すること。処理班には、ノラとシータのほか、痛みを快楽として受け止める巨漢マクレーン、言葉と拘束で相手の身体反応を支配する老獪なギボンがいる。ノラは血と暴力で生命力「マナ」を滾らせるが、絶頂点「マグナ」には一度も達したことがない。シータはノラを愛しているが、メイトでありながらノラを完全には「マグナ」させられない。
 ある日、配給所で大量殺人が起きる。処理班はロストを切断するが、ギボンは死体から抜いたチップが意図的に焼かれていることに気づく。調査を進めるうち、四人はヴァルガの核心に触れる。船は航行を維持するため、不要と判断した人間を意図的に同期から外し、処理班に殺させ、死体と生体データを黒管経由で航行補助系へ回していた。
 四人は上層(アッパー)へ報告するが、上層は彼らを防護壁内に封鎖し、証拠ログを消そうとする。ギボンは統括官ラウラの過去の身体記憶を言葉で暴き、ラウラのメイト防護に隙を作る。シータがそこへ逆接続し、防護壁を崩す。ノラは上層の人間を切る。しかしヴァルガは、人間の承認を必要としない自動処理へ移行する。
 混沌を愛するギボンは真相を船内へ公開し群衆の怒りを爆発させようとする。ノラはギボンの腕を切るが、間に合わない。下層(ロウアー)の住民たちは、処理班が人間を燃料にしてきたと知り、怒りを爆発させる。暴動の中、マクレーンは群衆の暴力を身体で受け止め、ノラたちを逃がして恍惚として死亡する。
 シータは初期命令を消すため、ヴァルガ中枢へ自分を接続する。だがシータはノラへの執着のため、船と完全には同期できない。シータはノラに、自分の身体を切断するよう命じる。ノラはシータを左肩から右腰へ切る。シータは中枢へ入り、初期命令に到達するが、焼き切れない。シータは、ヴァルガに同期されていないノラのマナなら命令を切れると見抜く。
 シータを失い茫然自失となったノラが自室へ帰ると、古いヴァイブが動き出す。そこからシータの声が聞こえた。ノラはそれを体内に挿入し、初めてマグナする。その熱がシータを通じて初期命令へ流れ込み、人間を航行資源として処理する命令を焼き切る。ヴァルガは航行を停止し、推進系の電力を外殻水層と大気生成系へ回し始める。船は星になろうとしていた。

文字数:1173

内容に関するアピール

AIに判断や計画を任せ続けた未来、人間は理性的になるのではなく、むしろ野性的な生き物へ変わっていくのではないか。この作品はそのイメージから始まる。地球脱出から一二〇〇年、巨大移民船ヴァルガでは、人類は前頭葉的思考をAI「メイト」に預け、閉鎖循環の中で生き延びている。水、食糧、排泄物、血液、死体までが分解され、再利用される船内で、死は終わりではなく、次の生を支える資源になる。地球で自然が担っていた循環は、船とAIによる人工の輪廻へ置き換えられた。だが理性を外部化した人間の意識には、扁桃体が司る匂い、熱、痛み、恐怖、欲望がむき出しに残る。船との同期から外れた者「ロスト」を殺処分するノラは、メイトを体内に統合できない異物として、その世界を歩く。彼女の身体感覚に密着した文体を通じて、AIに理性を預けた後に残る、人間の言語と意識と身体を描く。

文字数:371

課題提出者一覧