防火壁の街

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梗 概

防火壁の街

三月のある夜。ケンはバーのカウンターで一人酒を飲んでいた。窓の外では、防火壁に埋め込まれた巨大ビジョンが市長のメッセージを映し出している。「火災警戒レベルは依然高い。でも負けないで。あなたは孤独じゃない」まるで教祖みたいだとケンは思った。

府中市は、関東一帯で慢性化した森林火災に対抗するため、国の特別防災都市計画のモデル地区として二重構造の防火壁〈シェル〉に囲まれている。高さ30メートル、延長4.5キロ。壁内部には二酸化炭素圧縮チャンバーが格子状に配置され、火災発生時には局所的に噴射し火を窒息させる。

八王子と日野はすでに度重なる森林火災で壊滅状態だった。府中は東京郊外ながらも、造幣局や金融系データセンター、自衛隊基地といった国家インフラが集中しているためシェルで守られていた。

ケンは火災で両親を失い、育ってきた府中の街から出られないまま非正規の点検員として生きている。

バーの店主ユキは壁の外から酒を仕入れており、表には出ない話を知っている。ケンは仕事帰りに立ち寄ることが習慣になっていた。

ある日、慈善サーカスが街にやって来る。火を使ったクラウンの演目中に引火事故が発生。演出のためシェルの消火機能は一時的に停止されていたが、ケンが緊急操作で火を鎮めた。

数日後、クラウンがバーに現れる。シェルは防火装置じゃない、市民管理システムだと笑う。ケンは否定するが言葉が頭に残った。実はクラウンは政府のエージェントで、慈善サーカスに紛れ込んで各地を調査していた。

そんな折、市長の子どもの火遊びが原因で下町に火災が発生。調査に入ったケンは、シェルの設計図から高級住宅街と下町でシェルの設計が異なること、さらに下町側の過去の火災ログが意図的に削除されていることを発見する。シェルはどの地区を優先的に守るかが最初から組み込まれていた。ケンが緊急アラートを送ろうとするがエラーとなった。シェルの管理AIがケンの行動を異常と判断し権限を遮断したのだ。上司に訴えても握りつぶされる。

再び現れたクラウンは、市政がある宗教団体に食い込まれているという情報をケンに告げる。シェルの格差設計は団体の選別思想と一致しているのだと。そしてケンの持つシェルのデータを求める。これを政府に渡せばこの街を変えられると言う。ケンは迷うが、ユキの後押しもあり、AIの監視が手薄なシェルのフォールバック回線にデータを紛れ込ませ、クラウンへ送信する。

数週間後、国交省は府中市のシェル設計に関する調査開始を発表。下町側の緊急改修工事が始まる。クラウンもユキも姿を消した。ケンが送ったデータは国を動かしたものの、市長は責任を追及されることはなかった。防火壁の巨大ビジョンには今日も同じメッセージが流れている。まるで教祖みたいだとケンは思った。そしてしばらく眺めてから立ち去った。

文字数:1165

内容に関するアピール

「あなたにとって一番怖いものとSF的なガジェットで向き合う話を書いてください」で火災にあったことがトラウマになっていると書いたのですが、最近また隣家から火災が出て、家が全焼してしまいました。

そんなわけで最終課題でまた火災の話を書き直してみようと思いました。エンタメ性はないですしダークな世界観になりそうなのでうけるとは思わないですけれど、今の時代の閉塞感とか行き場のなさみたいなものもこめられたら、自分としては良いのではないかと思っております。

文字数:222

課題提出者一覧