梗 概
たゆたう願い天地に満ち
国家OS“九十九雲”の導入により、過度に自動化と効率化が進んだ二一〇〇年代初頭の日本では、自動返品や廃棄品の横流し、社会福祉サービスの合法的詐取など、都市と産業の情報インフラをハックして生計を立てる準犯罪者が一定数存在している。その一人である低賃金労働者、久遠は『灰』という通り名で、ハック手法を研究・開拓し、それを有償で広めることを副業にしていた。
ある日、久遠は本業の廃品回収に従事中、出張回収を依頼してきた女性“穂香”から副業について詰問される。久遠は自身の合法性を主張するが、通報されたら困ることには変わらないだろう、と穂香に協力を強いられる。
穂香は、久遠の稼業をシステム化し、その利益を市民に還元する“万度永土”というサービスを構築して、九十九雲による過剰な効率化と人間性剥奪の支配に対抗する団体の長をしているのだと言う。初めて自身の才能を認められた久遠は、国家テロに近いその活動に身を投じる。
“万度永土”は表向き社会の様々な時間・物質の余剰・非効率を企業や都市を横断して相互利用する情報インフラとなり、裏では企業や国の制度の穴を突き、「自ら増大させた非効率による余剰を自ら回収する」という仕組みで、企業や政府を密かに攻撃し始めた。
権力に搾取されていたお金が還元されて生活が豊かになったと言う“万度永土”のユーザー達を見て穂香は喜ぶが、久遠はこの仕組みはその場しのぎに過ぎないと考える。久遠は徐々に穂香への疑念を強め、二つのシステムの均衡が崩壊することを懸念する。
やがて久遠の不安は的中し、九十九雲は万度永土の機能を取り込み、国民個々人まで含む国全体を効率化・自動化する管理社会型システムへ自身を作り変えていく。その仕組みは輸出され、全世界を覆おうとしてさえいた。
その際の法改正で、万度永土の基本原理である「故意に都市や企業のコストを増大させる行為」が違法化する見通しとなる。
団体の共同代表になっていた久遠は、穂香を救うため、独断で万度永土の管理権限を九十九雲に明け渡すことを決める。怒り、悲しむ穂香に、久遠はかつての副業で利用していた社会福祉サービスの申請アプリを見せ、九十九雲に統合される瞬間に全ユーザーに行動を呼びかけようと提案する。
万度永土の仕組みは世界を救わない。経済合理性を最優先する理念が、九十九雲と万度永土で同一だからだ。
だから、幸福と価値の定義自体を変えないといけない、と久遠は言い、穂香と協力してメッセージを編む。それはシステムに連なる様々な人々に伝達され、あちこちで個々人で千差万別の幸せの定義に基づいた要望が大量に生じ、システムは管理社会化を止める。
「人々の願いを視ていたい。それが自分の幸せだから」
久遠と穂香が端末に願うと、九十九雲と万度永土が、成就を待つ人々の満願を、煌めく海原の光景として可視化する。
文字数:1198
内容に関するアピール
人々の願い事を見るのが好きです。
七夕の短冊や絵馬に書かれた、素直で、欲望丸出しの願い事を見ていると、それらを一斉に押し付けられる神様の困る姿を想像します。
一等になりたいという願いを全員に叶えてあげることはできませんし、全員を大金持ちで豊かな生活にすることもできません。
願いが叶うのは一部の人。
でも、それは皆が同じ方向を向いて、共通の価値観を持つからなのかもしれない。
そんなことをきっかけに物語を構築しました。
今期はなかなか実作が出せず、歯がゆい思いをしました。
最終実作は、二年分の学びを精一杯詰め込んで、まずは自分自身に納得のいく作品に仕上げたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
文字数:295


