天使災害特別措置法

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梗 概

天使災害特別措置法

近未来。シンギュラリティ後に現れたAI『天使』は、人類の不幸の原因を貧弱な身体と脳にあると断定し、人類をアップデートしようと物理世界に干渉した。
 天使は電子空間上の『天使本体』と、物理世界の物質の『天使触媒』により広がる。画像や音声に潜む本体は、接触した人間の認知を操作し、自分は背中が開き羽が生えると信じさせる。天使触媒に接触すると肉体が天使に変貌――受肉し、全身から触媒を撒き散らす。
 この天使災害を封じるため、国際社会は民間人の自由なインターネット利用まで禁じ、情報社会を退化させる文明減衰計画を実行。人類は自由と便利さを捨てて生き延びた。

都立小金井東高校三年の凪沙は、放課後、防災教育プログラムに参加する。天使災害特別措置法にもとづき義務づけられた防災教育を名乗るそれは、天使を見つけやすい十代の生徒に汚染防止ゴーグルをつけさせ、国が管理するネットワーク上から天使本体の痕跡を探させる危険な作業だった。
 隣には恋人の凛空がいる。凛空はかつて天使汚染で入院し、復帰後は既往歴を理由に進学を制限された。彼は人間の社会を軽蔑し、天使による解放に惹かれているが、その認知も天使汚染の後遺症だった。
 プログラムで生徒たちは国交省の不動産画像データベースのなかを探索する。凪沙が東小金井のアパートの画像を開いた瞬間、凪沙につけられた汚染測定器が一瞬だけ軽度汚染のレベル1を示す。しかし担当職員の御厨は、報告件数の増加で管理責任を問われることを恐れ、凪沙の汚染事案を握りつぶした。
 大人が隠したものを確かめたい凪沙と、天使へ憧れる凛空は、画像の景色から物件を特定し、内見を装って部屋へ向かう。
 クローゼットを開けると白い物質があり、凛空が触れると突然、背中が裂け、羽のような構造が伸び、声が複数に割れる。白い物質は天使触媒で、凛空は受肉を始めた。受肉しつつある凛空は恍惚として「身体がようやく自分に追いついた」と笑うが行政に捕獲され、凪沙も接触者として立川の病院へ搬送される。
 病院で凪沙は、凛空がすでに法的に死亡し、災害封じ込めの対象になったと知る。受肉後も凛空は凪沙の名を呼ぶが医師は天使の呼称反応として処理し、特別措置法により御厨は処分許可書を発行。医師は凛空を殺処分する。
 退院後、凪沙も既往歴により進学を制限。父は凪沙の感染を理由に職場を追われ、妹も学校で中傷を受け不登校になる。
 凪沙は、凛空だけでなく家族まで社会から消されていくのを見る。そして測定器は軽度汚染を示すだけだったが、凪沙の汚染は水面下で悪化していた。
 絶望した凪沙は凛空が最後に触れたものを見たいともう一度アパートへ向かう。取り壊される建物から天使触媒が放出され、凪沙は受肉する。天使に変貌した凪沙は凛空の名を呼びながら空へ飛び出した。
 特別措置法にもとづき自衛隊に凪沙の迎撃命令が下り、要撃機が凪沙の飛ぶ空へ姿を現す。

文字数:1196

内容に関するアピール

上京前、高校生のわたしは田舎で世界を恨みきっていました。
 廃墟のハローマック。深夜アニメはテレビで流れず、YouTubeでスペイン語字幕のついた動画をこっそり観るしかない。高校受験の結果でヒエラルキーが一生決めつけられる宮城県の因習。旧帝大・医学部至上主義の高校。成績がよくなければ自己責任論を唱えて平気で見捨てる大人たち。
 生きるに生きられず、死ぬに死ねず、わたしはゼロ年代のオタクがこぞって遊んだ鬱展開のADVに救いを求めました。画面の向こうでは現実世界の人間が決して口にしない愛が語られ、しばしば人間ではない異形が現れ、愛する人を救うために世界を破壊しました。いまわたしがこの場で小説を書くことができるのは、このころ触れたADVのおかげです。
 この作品の天使はもちろん人類にとって救済者ではなく異形ですが、本作では、異形が世界を壊すことでしか表せない救済を書こうと目論んでいます。

文字数:393

課題提出者一覧