梗 概
センス・オブ・ワンダーズ
来栖刑事は解決済みの事件から新たな事実を発掘することで評価を得ている警察組織の嫌われ者だ。とある富豪が殺害された事件に目をつけ、犯人が自供した方法では犯行が不可能なことを看破する。論理的には、被害者が最期に読んでいた小説が死を招いたと考えられた。小説に人は殺せるのか?
解析の結果、小説は、被害者が生前誰にも話せずAIに打ち込んでいた膨大な相談ログの内容をベースに組まれていると発覚。被害者を死に導く感動を与えるためだけに作られたオーダーメイド小説だった。
来栖に問い詰められた犯人は犯行方法を自供。売れない小説家である彼は、カレイドと名乗る人物に「世界でいちばん感動できる物語」を書くよう誘われたことを打ち明ける。18世紀のドイツで流行した『若きウェルテルの悩み』の読者の集団自殺。小説家は現代のゲーテになろうとした。
その日、不特定多数の電子書籍アプリに謎の小説が配信される。カレイドの狙いは、富豪の殺害に使われた小説とAIへの相談ログの照合分析データだった。それがあれば、カレイドは小説家に頼らず、AIへの相談ログから人を殺せる小説の生成にいつか辿り着く。カレイドの配信する小説は進化を続け、人の気を失わせるレベルになる。
政府はカレイドによる書籍配信を凍結するが、次にSNSやメールがハックされ、小説は配信され続ける。文字が読める環境なら小説はどこにでも入り込める。やがて全てのインターネット接続が切断されるが、今度は印刷システムがハックされ、新聞やチラシの一面にも小説は入り込む。
ある日、カレイドは勝利を宣言。大多数の人間は文字に目を伏せる生活を始める。しかし、人生一度の感動への好奇心から、小説を読みたがる人間は絶えず、ネットは草の根的に復旧する。遂に不特定多数に殺人小説が配信される。
来栖たちは、別の小説をAIに準備させていた。ウェルテルと反対に自殺抑制の効力を持つパパゲーノ効果。彼らは相談ログにてAIが提供していた回答や、これまでの世界で語られたあらゆる希望の言葉のデータベースを用い、人に生きたいと思わせる小説を生成する。
しかし生前の富豪に作られた物語探求AIであるカレイドには、その展開まで組み込まれていた。最上の希望を組み込んでこそ絶望は活きる。むしろ来栖たちによって編まれた物語を取り込んだことで、人を殺す小説が量産されてしまう。
絶望する来栖たちだったが、実際に人が死ぬことはなかった。死に近い箇所まで人を追いやるに至るが、最後の感動まで詰め切れない。結局、人を殺すことができたのは、売れない小説家が富豪のために書いた小説だけだった。
ここまでが富豪が仕組んだことだった。彼は自らの死とカレイドの小説の限界を示すことで、人の力を証明した。やがて、人の脳には、人間が書いた物語だけに反応する感動が存在することが明らかになる。その感動は、センス・オブ・ワンダーと名付けられた。
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内容に関するアピール
卒業制作のつもりで最後はやりきろうと思います。この一年間で考えたSFの定義、物語が与えるもの、小説というメディア特性を内面に取り込んだ、小説を題材にした小説です。
卒業制作ということでちゃんとSFというジャンルを書こうと思ったとき、最も印象に残っていたのは、超SF創作マニュアルで語られていた蚊取り線香の話でした。蚊取り線香の内側へ収束していくミステリー、外側へ拡張していくSF。
というわけでは本作は、ミステリーとしては一度解決済みの舞台から始まり、そこに芽吹いた一つの嘘が転がることで、世界を覆っていってしまう様を描きたいと思います。
個人的には、この一年で豊かさを知り友となったAIに敬意を表しながら、ちょっとした対抗心を込めて、人間と物語への賛歌で締めくくればと思います。
(梗概評価を見ながら、既存作とどちらを新人賞に出すか決める予定です。既存だとやっぱり唯一評価されたラーメンか)
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