梗 概
樹は大地へ、大地は都へ
リーメンの息子ティルマンが住む村一帯は、その年不作だった。飢饉が起きるというほどでもないが、備蓄が出来るほどでもない。しかし、何人かの若者が口減らしをかねて都に行った。羨ましがる者もいたが、ティルマンはこの村に残ることを望んでいた。作業の途中、涼しい木陰を提供してくれる大木の側にある祠の側で一休みしていると、ティルマンが父親に呼び出された。もう十五歳になり、呼ばれるほどのへまをすることも少なくなっていたので、ティルマンはいぶかしんだ。話があると言われ、家に入っていった。
王都にいる知り合いから彫刻職人の弟子の引き合いが来ているから行け、と言われた。 ティルマンは拒否したが、父は頑として行け、と言い続けた。
幼い頃高熱を出した時に、たまたま村に来ていた放浪行者に、土地神を大切にしろ、都は誘惑が多い、良くないところだから一時的な滞在はともかく、移り住むようなことはよめろ、と言われた。それを引き合いに出しても父は譲らなかった。行者の言ったこともだが、自分は生まれたところの神から離れたくはないし、慣習も違えばゆかりのある人もいないところになど行くのは嫌だ、といっても聞き入れられない。激高するティルマンとは逆に、父親に何かあったときに充分代わりが務まる兄や、ましてやっと娘の領域にさしかかってきた妹を都に出す気か、と 静かに諭された。父は正しい。今この家から離れるべきは自分だ。頭では理解した。だが感情が追いつかずに、家から飛び出し、祠の大木のところに入っていった。拳を幹に何度も打ち付け、涙を止めようと幹に顔を押しつけた。
ふわり、と何かに包まれた気がした。ぎょっとしてあたりを見回したが、何もいない。祠の神か、と独りごちた。教父がいる厳めしいお堂とは逆に、祠は幼い願いを幾度もしてきた親しみあるところだった。すう、と心が落ち着いていった。
旅立ちの日に、父は紐の付いた小さな袋をティルマンにお守りだと渡した。中身はあの大木の小枝だと言った。祠のある大木の枝を細いものとはいえ折ることは、村の老人達からいい顔をされることではない。
ティルマンはうつむき、小声で礼を言った。
王都に行く集団の頭が出発を告げた。ティルマンは前を向いて歩き始めた。
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内容に関するアピール
この世界観で15歳ならもう少し大人だろうとか、女の子とのあれこれの方が説得力があるだろうと
も思いましたが、結局自分の得意で好きな方面で書きました。
もう少し何らかのエピソードがあってもよかったかなと思っています。
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