梗 概
感想ポルノ
映画館は阿鼻叫喚に包まれた。
今日公開の映画の結末が劇場アナウンスから流れる合成音声によって明かされてしまったからだ。ネタバレに対して人は無力だ。いまや生活に不可欠なAIは、終ぞネタバレが禁忌であることを学習することはなかった。AIを利用してネタバレをまき散らす者も多く、人々は常にネタバレの危機に晒されている。都会に住む人々はネタバレを受け入れるか作品には触れることなく生活していた。作品に触れない人たちの間では合法の電子ドラッグが流行っている。拒む者に反抗する手段はなかった。
深海由未は抵抗主義者の一人だった。彼女は寂れたビルの地下室に赴く。そこではレジスタンスが読書会を行っていた。ヘッドギアを装着し、本の文字データと作成された感情データが流し込まれ、頭の中で一冊分の読書体験が生まれる。
「今回の読書はいかがだったかね?」
地下室に設置されたモニタから男の姿が映し出された。発売前の本の文字データと対応する感情データを提供してくれる彼らの支援者だ。「最高だった」とみな口を揃えて言った。
ある日、支援者から依頼があった。
「私の知人の子がそちらに向かった。保護してくれないか」
田舎で生まれて世間慣れしていないというその少女を探すため、みな街中を駆け巡る。
由未は運良く少女と遭遇。地下室へと連れて行く道中、少女の話を聞いていると本が好きらしい。由未が最近”読んだ”本の話を始めると彼女も読んでいた。拙い言葉で話すしかない由未に比べて少女は由未が言葉にできない感情をそのまま言語化するかのように語る。
由未は一つの危惧を覚える。少女を地下室へ連れて行かず、そのまま故郷へ案内してもらう。少女の故郷に着いた由未は自身の予想が的中したことを悟る。その街は電波がなくネットも存在しない。街には大きな図書館があり、中では皆がヘッドギアをつけて本を読んでいる。この街は読書に必要な感情データの収集場だった。動揺する由未、そこに警備兵が現れて捕らえられる。彼女は支援者の前に連れて行かれる。ここに移住したいと懇願するものの支援者は、由未が感受性に劣り有用な感情データにならないと拒否した。
都会へと戻された由未。話はどう伝わったのか地下室に訪れることは許されない。趣味を失った彼女は街に蔓延する電子ドラッグに手を出すが、その使用感には覚えがあった。感情データを幾つも混ぜ込んだ感覚。支援者を始めとする人々は抵抗派には読書のため、受容派にはドラッグとしてデータを売りつけていたのだ。
今更知ったところで由未にできることはない。
彼女はその後、電子ドラッグに身を委ね、少女の豊かな感性の影を求めつづけた。
文字数:1200
内容に関するアピール
先日とあるゲームをプレイしていると、発売一週間後にも関わらずChromeやYouTubeのオススメでネタバレが並んで泣きました。
自分でネタバレを踏んでしまったら仕方ないか、と諦めもつくのですが、このような形でネタバレを食らうとやるせない。その影響で今回はネタバレがありふれた世界が舞台となります。
と言ってもネタバレはされた時点でどうしようもないので、あくまで前提でしかないのですが……。
書ききれていない部分として、少女は、彼女の興味が本よりも外界に向いてしまっているので最終的に田舎を追いだされます。
実作では由未だけではなく少女側の描写の比重も増やし、ネタが開示されるたびに悪い方向に進んでいけたらと思います。
文字数:305