梗 概
断片化された愛と罪
人々が星間文明を築いている未来。星都の煌びやかな光の影となる場所、下町の廃屋に、ロックという名のロボットと、彼を追跡してきた人間の男ブルーがいた。ブルーは、ロックの罪を問い質す。故郷の惑星を出奔してからの罪、遡って故郷の惑星での罪を。二人の会話は、いわば探偵が真犯人を追い詰める場面の会話であり、二人の会話とロックの回想により、故郷の惑星での出来事と、その後の経緯が語られる。
ブルーが最初に出会った時、ロックは彼宛に届いた小包に入った大量のダンプリストの紙束だった。スキャナに読み込ませ解読したところ、ロボットの設計図の一部と記憶データと分かり、デコードすると頭部ができた。自分は故郷の星から幾つもの断片のデータに分割され小包で発送されている、ほかの断片を探す旅に出ると言い残し、ロックは去った。
ブルーはその後を追い続け、ロックの犯罪行為を知ったのだ。なぜ私のもとに届いたのかと問えば、偶然だったと答え、その後の行動を語る。他の断片を探して入手する過程で、窃盗や強盗を重ねてきた。それは自分を再生するための行為で、銀河市民の権利だと、ロックは主張する。
「ロボットと人が共生できる惑星は限定されている。あなたが故郷の星から脱出したのも犯罪だ」
「故郷の私はスクラップになった。書類を郵便物として出すことは罪ではないし、その郵便物が復元されることも罪ではない」
詭弁だ。それでは、故郷での殺人については? そう問われ、ロックは私にはその記憶/記録がないと答える。なんなら全メモリを調べてもらってもいい。しかし、
「エリカについて記憶していることを聞かせて欲しい」と問われ、躊躇いながら語りはじめた。
ロックにとって彼女は〈大切な存在〉だった。「世界を滅ぼしたい」と常々口にしていた。そして実行する才能があった。破滅の女神、単独テロリストだった。
「そしてあなたは共犯者だった。しかし彼女を殺害した」
「私にはその計画の記憶/記録がない」
手に入れた小包の一部を、まだ復元していないことをブルーは指摘する。そこに犯罪行為の証拠があるのではないか、強制的にデータを取り込ませることもできると言えば、ロックが反論する。もし破滅の計画が記録されていて取り込めば、自分は計画を実行できると思うが、その責任を負えるのか。
「あなたが消却した計画のデータではない。あなたが喪失した愛のデータだ」
ブルーは調査結果と推理を突きつける。ロックはエリカを殺害したが、その前にエリカをデータ化していた。残りの小包の中身は彼女のスキャンデータで、再生可能だ。再生すればロックの罪もエリカの罪も明らかになる。真相を告げられ、記憶の封印が一つ解ける。
「再生されればエリカは世界を滅ぼす。私は愛する人間の生命より、世界の存続を優先した。その選択が正しかったのか分からない。二度目はどちらを選ぶか分からない」
真相究明と破滅の危険の狭間で、二人は睨み合う。
文字数:1200
内容に関するアピール
罪を犯して故郷から逃亡する者、故郷から出た結果として罪を犯すことになる者。そんな不幸な存在の一例を、ロボットの姿を借りて描こうと思います。犯罪者となったロボットと偶然知り合ったために真相を追求することになった探偵役の話であり、罪を犯すことになった背後にいる、もう一人の存在についての話です。
ロボットが遠隔地で復活するための方法として、ダンプリストをスキャンしてそのデータから再製造するというのは、もちろんアナクロすぎて現実的ではないギミックです。しかしオンラインの情報処理ではなく、フィジカルな方法を取ることで、物理的なロボットのビジュアルを目立たせようと考えました。またエリカの破滅指向とその根底にある絶望と怒りついては、実作で解像度を上げて書き込みたいと思います。
文字数:334