ダァのコトハ

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梗 概

ダァのコトハ

 西暦2230年、人類は宇宙空間で異星人と交戦していた。異星人の兵器が放つ光線は人類側の攻撃や機体をまるごと消滅させることから、非常に恐れられていた。光線によって消滅した人類側の機体が南極の氷塊中から発見されたことから、光線には空間転移の性質があるとされている。移民の両親を持つ14歳の少女・コトハは他の多くの同世代と同じく、戦闘要員として宇宙航空部隊へと配属される。

 紀元前6万年頃、洞窟で暮らす簡単な言葉しか持たないある人類集団に、異様に小さく尖った顎と広く扁平な額を持った女の子が生まれる。その集団では、時々生まれる奇妙な骨格を持つ子供を、役立たずの意味を込めて「ダァ」と呼ぶ習わしがあった。

 6歳になったダァは、ある儀式に参加する。洞窟の暗闇の中、長が何かに触れると奇妙な音が流れ出す。その音は彼ら自身の声のようにも聞こえるが、それらよりも圧倒的に多様で複雑な音だった。その場にいる者たちはその音を聞くと感情が高ぶり、お互いの身体に激しく触れ合う。

 コトハは移民ゆえの容姿の違いや独特の訛りから部隊に上手く馴染めない。寮に帰っては毎晩、手元のデバイスにその日の出来事と故郷の家族を思う気持ちを日記として吹き込む。コトハの任務が決まる。光線の謎を解明するために、詳細な飛行データを記録する高耐性のブラックボックスを積んだ機体で攻撃をしかける任務であった。いわばデータ収集用の特攻部隊であった。

 ある日、ダァは例の儀式の音を真似て声を出してみる。周囲の子供達も真似してみたが、誰もダァのような声は出せない。かつてのダァと呼ばれた者たちの振る舞いを知る長は、ダァの口を手で押さえて、真似を止めさせる。

 ダァは14歳になる。しかし同世代の女たちのように子供を生むことは許されなかった。ある日、自身と似た顔のかたちをした集団と出くわす。彼らが何かの声を発する。ダァは儀式のときの声に似ている気がして、例の声の真似をする。彼らはダァの身体に触れてきた。ダァのいる集団では誰もダァの身体に触れてくれなかった。ダァはその集団がかつてダァと呼ばれて集団から離れていった者たちだと理解する。

 宇宙空間に到達した機体の中で死を覚悟したコトハは、ブラックボックスのボイスレコーダーに、いつか誰かに届くように願いを込め、最期の日記を吹き込む。

「お母さん、お父さん、私はいま、うちゅうに…」

故郷の言葉、わずか二十数個の音素の組み合わせで構成される、かつて日本語と呼ばれた言語であった。コトハは閃光の中に消えた。

 ダァは洞窟の奥から盗み出した声の正体を盗み出す。それは光線によって時を超えて流れ着いたコトハのブラックボックスだった。

「おああぁ おどっあっ わっだっわ いっまぁ うじぅにぃ…」

 ダァは、不思議な気持ちにしてくれる例の声を真似しながら、先日見たダァたちの集団を目指し、北へと向かう。

文字数:1192

内容に関するアピール

 このお話では遠く隔たった2つの時代で、2人の少女が生まれ故郷を離れます。一方では未来の特攻部隊として地球を離れ、その最期のメッセージは遠い過去へと届き、それをきっかけにもうひとりの女性が故郷の人類集団を離れます(そして発話機能を持った現世人類へと繋がっていく…)。

 日本語は難解な言語だとよく言われますが、実は日本語の音素(母音や子音など)は英語などの他の言語と比較してとても少ないという事実に着想を得ています。

 ダァの身体的特徴はネアンデルタール人に対する現生人類の特徴を参照しています(ただし、現在のところネアンデルタール人から現世人類が分化した証拠は見つかっていません)。

 2001年宇宙の旅の冒頭に登場するモノリスは、もしかすると未来人の言葉だったのではないかと思うことがあります。

 

参考資料
ジャレド・ダイアモンド, 秋山勝訳(2015)若い読者のための第三のチンパンジー:人間という動物の進化と未来, 草思社
紫波町 教育委員会事務局 こども課(2021)言葉の発達と「幼児ことばの教室」のご案内 https://www.town.shiwa.iwate.jp/kiracha/column/5996.html

文字数:504

課題提出者一覧