梗 概
此処からの脱出
その犯罪者の男は自分の悪意が生み出した怪物から逃げている。男は生まれ育った街に隠れた。街は異空間となる。その街の住人の記憶は消失した。
彼は此処(異空間になった街)で生まれてスグルと名付けられ育てられた。誰に育てられたか覚えていない。此処でどれくらいの時間を生きてきたのかも分からない。彼に分かるのはスグルという名前だけだった。此処には生きるために必要な最低限のもの、空気と水と食料、服と住む家がある。自分が誰から生まれてきたのか? なぜ自分は此処に居るのか? 自分は何歳なのか? その他の様々な疑問はスグルの意識には浮かんでこない。
此処にはスグルの他にも多くの人がいる。でも、知り合いは友達のアスカだけだった。アスカは昼間のほとんどの時間スグルと一緒にいる。まるでスグルを見張るかのようにして。スグルとアスカも含めて此処に居る人たちは何もしない。穏やかに流れゆく時間に身を任せていた。
この穏やかな空気が定期的に乱される。
醜悪な姿形をしている集団(犯罪者の男の悪意から生まれた怪物)がやってきて、此処に居る人たちに襲いかかり何人かを攫っていく。襲撃者たちが何者で何処からきて何処へ行くのか? なぜ人を攫って行くのか? 此処に居る人たちには分からない。
抗う手段を何も持たない此処の人々は襲撃をただ受け入れるしかなかった。襲撃日は悲惨だけれど翌日になるとそのことも忘れて穏やかな時間が再び流れ出す。誰が攫われるかはその時になってみないと分からない。次は自分かもしれない、とスグルは思うけれど恐怖心はなかった。
そんなある日のこと、スグルはある旅人の男と出会う。「此処は異常だ。早く此処から離れたほうがいい」と言って旅人は去る。スグルはアスカに「此処は異常なのか?」と訊く。「そんなことはない。此処は正常な世界だ。ずっと一緒に此処に居よう」とアスカは言う。しかし、スグルの心に芽生えた疑問は消えない。スグルは旅人を探す。詳しく話を聞きたかった。しかし、旅人は見つからない。
スグルは此処の異常さに気づき始めている。何もしないで食料が供給されて、平穏な毎日が続いて、定期的に襲撃者が襲ってくるなんて異常すぎる。あの襲撃者たちは、ある特定の人物を探しているのではないか? その人物は誰なんだ? その人物さえ襲撃者に差し出せば此処から脱出できるのではないか? とスグルは思い始める。そして、旅人の男と再会する。
アスカは犯罪者の男の隠れ場所を知っている。彼は此処を永遠に守りたかった。だから、スグルが此処の秘密に気がついて此処から脱出しようと言い始めることを恐れていた。此処がなくなればアスカも消滅してしまう。しかし、スグルと旅人の男に説得されて隠れている犯罪者の男の隠れ場所を二人に教える。
次の襲撃日にスグルとアスカと旅人の男は犯罪者の男を襲撃者に渡す。街は異空間から解き放たれて、スグルは此処から脱出する。
文字数:1200
内容に関するアピール
スグルも犯罪者の男も、生まれ育った街から離れたいという欲望を持っています。スグルは脱出に成功して、犯罪者の男は脱出できずに自らが生み出した悪意に倒されてしまいます。束縛されている場所から逃れて自由になるにはどうすればいいのか、ということを主題にして考えました。
梗概では簡単に書かれていますが、スグルとアスカと旅人の男は協力して犯罪者の男と対立・対決し最終的に勝利します。
食料など何でも手に入る異空間とか醜悪な怪物とか、抽象的で無理な荒唐無稽な設定ですが、少しでもリアル感のある実作に仕上げたいと思います。
文字数:254