貴方達は単なる菌床である

印刷

梗 概

貴方達は単なる菌床である

「きみたち だれ (他の菌類を示す代名詞?)(付近の植物を示す代名詞)(解読できない単語)」

これは菌類の一種、スエヒロタケと初めて会話に成功したときの、スエヒロタケ側の回答である。

菌類が電気信号でコミュニケーションを行っており、単語と文を持つことは以前から知られていた。言語学的なアプローチでいくつかの単語の意味を確定したことで、会話が試みられたのだ。最初は驚いていたスエヒロタケだったが、相手がヒトという種族であることを知ると、やがてこう言った。

「理解 (菌類全体を示す代名詞)(強調) 脅威 (解読できない単語) 知った」

この日以降、菌類の生態系が劇的に変化していった。最も大きな変化は、プラスチックを分解し爆発的な繁殖を行うプラスチック食性エノキと、同じく鉄で同様の繁殖を行う鉄腐食性ツキヨタケ巨大種の発生である。地球全域でほぼ同時に変異種が出現し、半年が過ぎるころには建造物への急激な侵食が進みつつあった。さらなる変異も続々と出現、しまいには本当に笑い声をあげ続けるワライダケ、目がありギョロリと見回すメダケ、道路を走り回るハシリダケといったキノコまで登場。ここに来て、人類は菌類全体が敵対意思を持っていることを認識する。

主人公である杉山麻衣は、日本の中学生であると同時に、キノコに寄生されたキノコ人間であり、この地方を統監するシイタケ族が派遣したヒトへの使者である。

キノコを中心とした菌類は、地球的規模の群知性を持つと同時に、限定された感覚器のせいでこれまで動物やヒトを一種の天災、つまり単なる自然現象として認識していた。はじめてヒトを知った群知性は、世界を再認識するためメダケやハシリダケといった感覚キノコを実験的に生成してきた。そしてヒトに寄生するタイプのキノコを作り出し、最初の被検体としたのが麻衣だった。

麻衣はヒトとしての記憶を失っておらず、そしてキノコの群知性とも接続することができる。最初は戸惑い、友人や家族に心配されながらも交番に行った麻衣はこう言った。
「自分はキノコの代弁者である。地球の今後について、ヒトの代表と話がしたい」

最初は一笑に付された麻衣だったが、やがて本物であると認識されるようになる。
群知性が求めるのは、知性と認識の拡大である。敵対的だった彼らも、麻衣を通じて対話を行い、姿勢が軟化するようになる。麻衣は、人間としての記憶もありしばしば群知性と衝突する。

交渉の結果、群知性はインターネットへの接続権を求め、代わりに人類の生存を一切脅かさないことを保証すると言った。人類に否応なく受け入れる。その後、麻衣と群知性の接続が切れ、麻衣はヒトに戻る。

やがて、キノコたちは地球各地で変異を始めた。その姿は、子実体の傘を逆さにひっくり返したような、パラボラアンテナ型の巨大なキノコだった。

何千もの観測キノコが、傘を宇宙に向けて、なにかを観測し続けている。キノコたちは人類の呼びかけに応答しなくなり、何を考えているのか知る術はなくなった。麻衣はそれを見て、群知性とともにあったときの一種の安らぎを思い出しながらも、個別の命として生きられる喜びを実感するのだった。

文字数:1295

内容に関するアピール

キノコがコミュニケーションに平均6文字の単語を使っているという記事を読んで、これは面白い、なにかに発展させられないかと思っていました。

できるだけ、何か印象に残るようなものができないかを考えて書いてみました。

 

これから一年間、よろしくお願いいたします。

文字数:124

課題提出者一覧