ホテル・オーエ302号室

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梗 概

ホテル・オーエ302号室

ヨコタタダシがリリに出会ったのは、太陽系内で最もいかがわしい場所だった。

太陽系の中で唯一知的生命体の存在する地球が、異星人の要求に応じて交易を開始してから五十年。
 通商条約によって開港されたポートウラヌス。太陽系内で最も華やかで混沌とした港。そこで一番大きいのがホテル・オーエだ。
 ホテルといっても、カフェ、バー、ダンスホール、賭場、そして風俗店でもある、いわゆる「あいまい屋」だ。
 真面目な商社マンのタダシを、そんないかがわしい場所に引きずって来たのは、大昔に廃れた「男らしさ」に固執しているゴンゾウという資源成金だった。

ホテル・オーエは本館を中心に、地球人ヒューマン向けの壱番館から参番館。異星人アザーズ向けの新館。そして会員制の別館が渡り廊下で繋がっている。
 タダシが通されたのは三番館。地球人ヒューマン異星人アザーズ相手に地球スタイルで楽しむための店だ。その302号室で相手ラバーとして現れたのがリリだった。

華奢で、小さな顔に大きな目。肌が薄緑である以外は地球人ヒューマンの美少女だ。

風俗業従事者であるリリの脳内には違法な手術でチップが埋め込まれていて、どんな客が来ても会話が可能になっている。
 愛のない行為に否定的なタダシは、リリに遊戯プレイではなく話をしようと持ち掛ける。
 リリは、行方知れずの地球人ヒューマンの男性と流れ者の異星人アザーズの間に生まれたが、母親は出産と同時に生命活動停止。ホテルのオーナーであるマダム・オーエに引き取られたのだと言う。
 哀れな身の上話に心ひかれたタダシは、この部屋に通うようになる。
 リリもまた遊戯プレイではなく、話をしに来るタダシの穏やかさに心を開いていく。

ある日、リリは地球人ヒューマンは、なぜこんなに生殖行為を好むのかとタダシに聞く。そもそも、なぜ個体を増やす行為が快楽に結びつくのかわからないと言う。
 リリは異星人アザーズの繁殖と快楽についてタダシに語った。
 そもそも異星人アザーズに性別の概念はないし、個体を増やすのに地球人のような行為を必要としない。また、快楽の形も様々で、NO.1のハナのようにゼリー状の巨体で相手ラバーを包み込むような遊戯プレイもある。
 一方タダシは、リリに地球人ヒューマンにとって愛と性が何かについて自論を述べた。

語り合うことで二人の距離は縮まり、やがてタダシはリリへの愛情を自覚する。リリもまたタダシに初めての欲望を抱いていた。
 子供が欲しいというリリに当惑しながらも、タダシはリリの体を抱きしめる。 
 その途端、リリはタダシを丸のみにする。
 溶けたタダシの体はリリと混じりあい、別のものへと変化していった。

十日後。マダム・オーエは、蛹のように固くなっていたリリの体を破って出て来た生物を取り上げて呟いた。

さて、この子にはどんな名前を付けようか——

文字数:1198

内容に関するアピール

異素材ミックスではありませんが、耽美×SFを目指しました。

戦前の横浜をモデルに宇宙の港の娼館の話を書こうとしたのですが、よく考えたら宇宙人は体の構造も違うだろうし、普通にそんな事ができるのか? 子供はできるのか? 人間と同じように快感を感じることができるのか? など、次々と疑問が沸いて来ました。
 考えてみたものの、どうにも解決しないので、それをそのまま作品に反映させました。
 また恋愛物の振りをしながらアンチ恋愛物でもあります。
 結局やる事は同じなのに、タダシは自分達の関係は純粋で美しいと思い込み、他人の性愛を見下すことで自分が優越感を感じるタイプ。
 身近なそういうタイプに迷惑を被っている人が、少しでも溜飲を下げられればよいなと思います。

リリはカマキリのイメージでしたが、蛹にならないと気付いて「何か虫っぽいもの」という設定にしました。

文字数:371

課題提出者一覧