死ぬほど気持ちいい

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梗 概

死ぬほど気持ちいい

大学を卒業したウズは、資源惑星採掘のための土地調査を主業務とする会社に就職した。
配属されたのは精神刺激薬の元となるガスが採掘できる惑星で、山間部でガスの採掘場所を調査するのが主業務だ。ガスは無色無臭で、直接吸うと過度の興奮状態に陥り平衡感覚の欠如等有害性が高いため採取場所の発見に危険を伴う。そのため、現地に生息している小動物モウを使って採掘場所を発見する。モウはげっ歯類のような生き物でサイズは5センチ程度、真社会性で女王を頂点に100匹程度のコロニーを作り、餌の少ない山間部を生き抜くために定期的に移住する生活を送っている。ガスを避けながら移動するため、それを利用してガスを発見するのである。

モウは移住の際に斥候役が何匹か周囲に展開、他は密集した塊になった陣形で移動する。そのうち斥候がふらふらとどこかに行くことがある。これはガスがモウの神経に作用して一種の興奮状態に陥らせているのが原因だと言われている。モウの集団は斥候とは反対側に舵を切って移動し、新たな斥候が塊から出てくる。そうやってガスを避けながら移住を繰り返すのである。
 ガスを吸った斥候役は十中八九死ぬことから自殺斥候と呼ばれ、これは女王モウからの物理的距離によって役割が決まることが分かっていた。調査員はコロニーごとモウを持ち運びモウを自殺させながらガスの場所を特定するのである。

ウズのチームは5人一組でチームリーダーがメインキャンプで待機、残りの4人が2人組でそれぞれ調査を行う。
ウズが組むのはベテランのサブリーダー、サイキ。
サイキはパッとしない見た目に反し口が悪く人当たりのよくない人物で、新人のウズには特にあたりがきつかった。
ある日、山間部奥地の調査を行うため4日間の長期調査が実施された。
ウズはサイキと二人だけの調査に強いストレスを感じるも、モウの中で指が欠けている一匹を可愛がることでメンタルのバランスを保っていた。

最終日の調査時、ウズは自殺斥候に選ばないよう塊に組み込んでいた指欠けが自殺斥候になっていることに気づいたが間に合わずウズの手の中で死んでしまう。
調査の道具に過ぎないモウに愛着を持ったウズを良く思わないサイキの仕業とわかり、言い争いをするうち互いの酸素マスクが外れ二人はガスを吸ってしまう。
ガスを直接摂取したウズは脳の中で何かが弾けるような快感を覚えながらも、昏倒してしまったサイキを抱えガスから離れ救助を要請、辛くも一命をとりとめた。

救助後、臨時ベッドで横になっていると意識を取り戻したサイキが話しかけてきた。それは救出したことへの感謝でも昏倒の原因を諫めるでもなく、ただガス摂取時の緊急時対応を褒める一言だった。
ウズはそれを聞いてガスを吸ったときと同じような弾ける快感が脳の中で起きたのを感じた。その瞬間は手の中の指欠けも、ガスを吸って全滅したであろう調査用のモウのことも忘れていた。

文字数:1190

内容に関するアピール

社会人になって最初の頃、パワハラ上司に当たってボコボコにされてた頃のことを思い出して書きました。
職場でパワハラされてる時はひたすら守りに入るんですが、帰ってから滅茶苦茶怒りが込み上げて、でも出社すると抵抗できない。
それを繰り返していたある日、ふとしたことでその上司に褒められたことがあって、見返してやったって気持ちじゃなく、ただただ滅茶苦茶気持ちよかったんですよね。ボコボコにされてた相手に褒められるのって。
ああー堕ちたなって思って家帰ってからようやく嫌悪感を覚えました。
洗脳されるのってこういう感じかなって思いました。

今までで一番気持ち悪い感情だったのでそれを書きました。

文字数:287

課題提出者一覧