テレジャイガーの島

印刷

梗 概

テレジャイガーの島

突如新宿地下街に現れた体長八メートルの怪獣に妻のサラが捕食され、天才科学者の菊池カズヤは怪獣への復讐心を燃やしていた。しかし地下鉄トンネルの壁を突き破って逃げた怪獣について判明していることと言えば人間を食べる際に地下街の構造物も一緒に食べていたというぐらいで現状動きようがない。じっとしていられないカズヤはホームセンターで武器になりそうなものをしこたま買い集め、その重みによろけながらも必死に地下街を目指したが、今や辿り着こうかという時に警備員に止められる。

落胆して帰ると家の前にサラが立っていた。以前と全く変わらない姿で不安げに微笑む彼女を、困惑しつつ抱きしめたカズヤは確かな温もりを感じる。気がつくと南海の孤島にいたらしいサラは、白い砂浜と夥しい瓦礫が広がる島でフルーツを食べて生き延び、偶然通りかかった航空機に救助されたのだという。

怪獣は食べたものを島に転送する能力を持っていると推測できた。物質転送機のような体構造を持つ怪獣が取り込んだ物質を分解し、島で再構築しているのなら、その機能をバグらせればいい。視床下部に作用する特殊なホルモンで実際よりも多くの物質を食べたと錯覚させる。食べた量を転送する量が上回れば、怪獣は足りない材料を補うために自らの身体を内部から分解するはずだ。

やがて多摩区に怪獣が再出現。カズヤは発明した注射型の新兵器〈まんぷく号〉とともに怪獣が暴れる遊園地に向かった。避難誘導中の警官の警告も無視してカズヤは怪獣と対峙したが、〈まんぷく号〉を使うどころか、逃げ回るので精一杯。そこに先ほどの警官が現れ、拳銃で怪獣の注意を引きつつ、カズヤに再三逃げろと促す。協議の末二人は連携し、怪獣に〈まんぷく号〉を打ち込んだが、油断した警官は食べられる。苦しみだした怪獣は周囲の構造物を手当たり次第に食べ、どんどん縮んでいく。

怪獣の消滅から数週間後、カズヤは正式な調査隊のメンバーとして件の孤島に赴いた。植物はない。当然フルーツもない。人が生きられる環境ではなかった。にもかかわらず無数に増殖した警官があちこちにいる。散らばる遊園地の残骸は全て怪獣の肉片と呼ぶべき組成を持ち、怪獣の体組織を材料に再構築されたことを示していた。風もないのに蠢く砂に、まるで島が生きているように感じる。〈まんぷく号〉使用前、転送される物質に怪獣の体組織が混入することはなかったのか?

サラは帰還したカズヤに打ち明ける。もはや自分は人ではない。食事も睡眠も必要ない化け物だ。そう知りつつカズヤに会いたくて帰ってきたのだと。孤島でサバイバルしていた妻が以前と変わらぬ姿で現れること自体が不自然だったとカズヤは歯噛みする。サラがずっと一人で悩んでいたのに自分は怪獣退治にかかりきりで気づきもしなかった。すまないと言って抱きしめるが、サラは自分は本来島の一部、いずれ砂へと還るべきとだけ言い残し、カズヤのもとを去る。

文字数:1200

内容に関するアピール

怪獣小説を主に書いていこうと思います。

講座期間中に色々なアプローチを試す予定ですが、今回は「物質転送装置×怪獣退治」というネタで書いてみました。実作ではいかに体長八メートルという中途半端な大きさの怪獣の存在感を際立たせ、いかに孤島の絵面のインパクトを読者に伝えるかという点を気にしてやってみます。

今回もずいぶん悩みながら書いたのですが、

  • 五十枚というボリュームで可能な怪獣ものとはどんな構造になるのか
  • SFとして話をひねりつつ怪獣ものとして成立させるために最低限押さえておくべき点はどこなのか。人はどんな時に「これは怪獣じゃない」という判断をするのか

などに対するバランス感覚は早めに身に付けておきたいと思っています。

また、架空都市も好きなのでそういう別ジャンルとの融合もやってみたいです。

未熟ですが探り探りやっていきます。一年間よろしくお願いいたします。

文字数:375

課題提出者一覧