ラッサンブレ・サリューエ

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梗 概

ラッサンブレ・サリューエ

光速はこの世の物体には超えられない速度の壁である。逆に言えば、光速よりも遅い物がこの世の物であり、光速を超えた先にあるのは別世界の物だ。つまり人類は、超高速の粒子――タキオン粒子を手にしてしまった事でこの世ならざるモノと繋がってしまったのだ。

アルゴスは影のように黒い二次元の姿をした未確認脅威である。生物のような有機的な挙動が確認されている。生物がアルゴスと接触すると、両者は消滅する。多くの検証と犠牲により、アルゴスには一つの軸が存在し、そこを光速の99.9999991%まで加速させた陽子で突き通せば消滅することが分かった。
 阿宮あぐはアルゴスを掃討するフェンサーの一人だ。タキオン照射機で自身と右手に持った陽子剣を空間に投影しアルゴスと戦う。
 自らが二次元となり、相対する敵と戦う。それは前後移動のみで戦うフェンシングという競技と通ずるものがあった。マルシェ、ロンぺ、ファンデヴー。フェンシングの動作は二次元的なものであり、正面の相手との距離感と正確な剣操作が勝負の全てだ。

ある日、出現したアルゴスが人の形をしていた。動揺しながら投影した阿宮の影は戦闘へ赴くとアルゴスに対して敬意を示す動作をした。すると、アルゴスがそれを真似たのだ。それは、フェンシングの試合前に行うものと全く同じであった。
 アルゴスとの意思疎通の可能性が見出されたことで、阿宮は一つの検証を始めることにした。アルゴスが出現すると、阿宮は戦闘の意志を持った影に加え、対話を求める意志を持った影を生成した。まずは対話の影でアルゴスとの意思疎通を図り、それに失敗した場合、戦闘の影でアルゴスを倒すことにしたのだ。
 検証を重ねる中で、アルゴスとの意思疎通の頻度が増えていった。そこで阿宮はひとつの仮説を立てた。超高速の先には別の世界があり、その世界の生物も我々と同じなのではないのかと。
 この世と超高速世界の技術レベルが、実は似通ったものであり、超高速世界の生物も試行錯誤しているのではないか。二つの世界を隔てている光速という速度軸の壁は障子のように非常に薄いものであり、向こうの世界へ行こうとする圧力部分が影となり、生物が重なると壁が破れ、生物は向こうの世界へと落ちていくのではないか。アルゴスの持つ軸は陽子照射機の照射軸であり、陽子剣で突いた光速未満の速度の陽子が陽子照射機に不具合を起こしてアルゴスという向こう側が作った影が消えてしまうのではないか。
 これらは仮説に仮説を加えた阿宮の空想である。しかし、それを否定する要素はなく、少なくともアルゴスが出現と友好の意思表示の頻度を上げていることはたしかであった。
 互いに求めているのは、光速の向こう側にある新たな可能性なのかもしれない。
「僕は、可能性の向こう側に行ってみたい」
 研究を続けるという意思をもって、阿宮の影とアルゴスは礼をする。
 ラッサンブレ・サリューエ。

文字数:1197

内容に関するアピール

たまにはファーストコンタクトものが幸福な未来を示していても良いのではないかと思いました。あとフェンシング、かっこいいですよね。トップ選手の試合ともなると剣の動きは速すぎて目で追いきれないくらいになります。もし見たことがなければぜひ一度ご覧ください。そういったカッコよさやスピード感も戦闘シーンで描ければと思っています。今回の設定では、自分の影が戦い、それを主人公が見ているという図になるので、観客視点での戦闘シーンになると思いますが、もし主観視点の戦闘の方が良さそうならそうしたいと考えています。講師の皆様からその辺りやフェンシングの説明をどの程度入れたら良さそうか等のご意見を伺いたいです。

話は変わりますが、ウマ娘面白いですね。特に僅か四度の戦いで神話になったアグネスタキオンがお気に入りです。

文字数:348

課題提出者一覧