くるくる廻れ、ハムスター

印刷

梗 概

くるくる廻れ、ハムスター

移動や居住が制限される未来。人々は情報収集のためにARコンタクトレンズを使用している。時はハロウィン、灰色のスラムに異形のARグラフィティが乱舞する。弱者のリーは隣町スラムとの抗争に巻き込まれ、覆面グラフィティアーティスト※にもらったARペンで描いた銃を構える。逃げおおせたリーに覆面は「絵は世の中を変える」と告げる。

グラフィティは時間や他人と戦いながら、ダンスのようなストロークで描くもの。無許可のグラフィティは違法行為で、絵を描ききるにはスピード感と画力、そして抵抗力が必要だ。制約と禁忌はスリルを生む。

リーはホームレスのトンに描き方と戦い方を学ぶ。感覚を乱すARペンは攻撃、絵が動作する顔料は目くらまし、4Dスプレーは攪乱。警察と絵で戦いながら腕を磨き、「人の絵に重ねて描けるのは、より完成度の高い絵だけ」というルールの中で勝ち残る。街にリーのタグ※、ハムスターが出没する。

思想のない絵は弱い。リーはトンから教育を受け、絵は破壊力を帯びる。リーはスラムと富裕地区を隔てる境界壁に絵を描き、富裕地区のクレアと友情を結ぶ。境界壁の絵はすぐに消される。消されるグラフィティはゴールがなく、作家のエゴを無効にする。リーは自分が、限られた場所で回し車を廻すハムスターのようだと葛藤する。

富裕地区に入るには、ゲートでIDが受理される必要がある。クレアは偽造IDでリーを出入り自由にし、清掃AIが絵を消さない判定条件を伝える。AIはリーの絵を消さなくなり、人間も絵がクールすぎて消せない。クレアがARコンタクトの標準アプリのMAPをハックすると、絵が即時反映されるように。絵はMAPユーザに評価され点も入る。

スラムを高級住宅地にし、貧困層を一掃する計画が発表される。リーたちはグラフィティで工事を妨害、スラムの見た目を変えて住所と道標を上書きする。工事担当者はスラムから去った。

業を煮やした都市開発側は、隣町のスラムに金を与えて抗争を誘発し、共倒れを計画する。計画を知ったリーは隣町にグラフィティでの勝負をもちかける。隣町のトップアーティストの名はジャズ。二人はスラムの境界壁にそれぞれ絵を描く。勝った絵が表で負けた絵が裏。評価者はMAPアプリのユーザと観客だ。

リーはストロークとリズムから、ジャズがトンだと見抜くが躊躇しない。回し車は廻し続けなければならない。時はクリスマス、ARグラフィティで冷気が熱気に変わる。勝負の後にトンが見せた素顔は覆面アーティストと同じだった。リーは驚かない。リーはトンの今までの言動が、覆面の発言「絵は世の中を変える」に集約されると気づいていた。

クレアはMAPアプリをジャックし、グラフィティ合戦を中継した。リーは人気者になり、スラムは街ごとアートとして保存されることになる。リーはスラムを出る決意をする。街は変わり、別の人間が回し車を廻すだろう。今度は別の場所で廻るのだ。

↑******ここまでで1199字******

※グラフィティ…塗料を使って街に作品を描く行為や描かれた作品のこと。日本ではグラフィティアートやストリートアートとも呼ばれている。

※タグ…作家名や所属団体等を書いたものをタグといい、タグを記す行為をタギングという。作家本人しか読めないタグもしばしば存在し、何が描いてあるのかを認識してもらえないことも多く、動物の絵を使う人もいる。

文字数:1387

内容に関するアピール

グラフィティSFです。以前、グラフィティをやっている知人から、グラフィティの制作は時間との戦いだという話を聞き、書きたいなと思いました。グラフィティのスピード感とストリートのライブ感、熱い抗争を、グラフィティ用語をまじえて鮮やかにかっこよく書きたいと思います。

人々はスマホではなく、ARコンタクトレンズで情報を収集しています。スマホを持つと手放せなくなるのと同じで、レンズも一度着けると外して生きられなくなります。リーのレンズは標準仕様、富裕層のクレアのレンズはスペックが高いのですが、クレアはリーと出会い、レンズの性能が高くても得られない情報や感覚はあるのだと実感します。

トンはオッドアイで、覆面の時は目だけ見えるが、普段はサングラスをしている設定です。
(最後にサングラスを外して実は自分が覆面グラフィティアーティストだということを示します)。

文字数:373

課題提出者一覧