アンドロイド・サーカス

印刷

梗 概

アンドロイド・サーカス

双子のアンドロイド曲芸師ルイとエメは、高所で綱渡りをしている最中に唐突にバランスをくずし落下してしまう。エメは綱にどうにかしがみついて事なきを得たものの、ルイの身体は修復不可能なまでに粉々になる。

人間とアンドロイドの共生するその星にもサーカス団はあるものの、アンドロイドの曲芸師はほとんど存在しない。アンドロイドの言葉や感情、見た目や身体能力は人間に劣らぬよう調整されているが、むしろ身体操作が巧すぎるために畏れや緊張感を演出するのが難しく、観客の心を掴みづらいとされていた。それでも曲芸に魅了されたルイとエメは幼いころから独学で技を磨き、サーカス団には属さず二人で各地をめぐり、野外のきわめて高い場所に渡した綱のうえで曲芸を披露することで日銭を稼いでいた。まるで人間のような表情や仕草で高度な曲芸をやってのけるため観客の反応も良く、とりわけエメの肩の上にルイがすらりと立った状態で綱渡りをする技の評判はよかった。

ルイの喪失に現実味をおぼえられず、エメはうまく悲しめないままこれまで通りの生活を続けようとするが、なぜか表情にとぼしい機械的な演技しかできなくなってしまい、客足は衰える。人間の医師にかかり、「人間的な」言葉と感情を取り戻すようカウンセリングを受けるが、効果はあがらない。

悩みながらも旅を続けていると、とある町で路上パフォーマンスをする道化師ピエロと出会う。その道化師もアンドロイドで、とあるサーカス団から解雇されたばかりなのだという(道化師は曲芸師と違い、アンドロイドでもその役を果たせるとされている)。二人はともに旅をし、路上で芸を披露するようになる。エメの腰にしがみついて綱をわたる道化師が、滑稽に高所を怖がる様を見て観客は湧く。

道化師はおどけるばかりで、日常生活においてもほとんど言葉を話さず、名前も明かさない。二人はもっぱら手紙やメモで意思疎通する。道化師の書く言葉はその振る舞いに反して内省的で、エメはその乖離に戸惑いながらも道化師に対して親しみをおぼえてゆく。

ところが道化師は、出会ったときとおなじように唐突に主人公のもとを離れていってしまう。エメはふたたび呆然とするがふと思い立ち、かつて道化師がしていたように自らの頬に涙の化粧をほどこす。すると現実味のなかった世界が突然精彩を取り戻し、以前よりもずっといきいきと——むしろわざとらしいほどの鮮明さで立ち現れる。遅れてきた強い悲しみのためにエメは大きな泣き声をあげる。

エメはその街でもっとも高い塔のあいだをロープでむすび、綱渡りをはじめる。眼下には美しい星の大地がはるばるとひろがり、畏敬の念に打たれる。地上に多くの観客が集まりはじめる。かつてなくあからさまに感官は冴え渡り、恐怖と興奮が嘘のように劇的に迫り来る。次第に風が強くなり、身の危険を感じはしたものの、エメは虚空を歩むのをやめない。

文字数:1188

内容に関するアピール

世界各地の高層建築で綱渡りをする大道芸人フィリップ・プティを題材にした映画を見て、綱渡りのアクション性に気付きました。

動作そのものはまったく同じ綱渡りだったとしても、地上に引かれた線を歩むように淡々と(機械的に・無感動に)ゆくこともできるし、落下への恐怖と興奮とを張り詰めさせて(劇的に)渡ることもできるはずです。実作ではその対比を引き立たせ、最後の綱渡りのシーンをダイナミックに演出できればと思っています。

アンドロイドの曲芸師が「人間そっくりに戻る」のではなく、さらにその先の超・ドラマティックな世界へ恍惚と向かいゆくようなさまを描き出したいです。

文字数:275

課題提出者一覧