梗 概
夜の魔女たち
イヴァナは少女たちをつれて塔を上る。高く高く。塔の頂上にたどり着くと夜になっている。屋上で鋼鉄の翼をまとって、彼女たちは一人ずつ夜の闇の中を滑空する。それがイヴァナの率いる第347夜間航空連隊の任務の始まりだ。
イヴァナの祖国は隣国と戦争をしている。争う理由は、実のところ何もなかった。ただ両国は戦争を必要としていた。戦争のための投資が両国の心臓を動かしているからだ。戦争は両国が栄えるためのショーとなり、国民の生活に欠かせないものとなっていた。
塔から滑り落ちること、西に3000メートル。その先が敵国との境界だ。音もなく滑空する彼女たちを地上から撃ち落とすことはできない。だから敵国も同じ編成の部隊を投じる。彼女たちは手にした小銃でお互いを撃ち合う。実包の頭には色とりどりの火薬が詰められていて、命中すると虹色に火花が輝く。同時に、命の灯がひとつ消えたことを示す火花だ。
この日、敵軍はイヴァナの部隊の三倍の兵力で彼女を迎え撃った。しかし彼女は怖じずに部隊を三方に分け、そのうちの二班で敵部隊を挟撃させるように見せかけた。イヴァナの率いる第三班は主戦場の下を滑り降りた。挟撃作戦に気がついた敵部隊が迂回をするために旋回を始めたところで、下方に控えていた第三班が地上付近から一気にブースターを吹き上げ急上昇し、退路を断つ。ブースターの炎で第三班の少女たちは姿を照らし出され、危険に身をさらされる。しかしイヴァナは急旋回からのきりもみ落下で銃弾をすべて躱し、自身の身体ごと敵の部隊長にぶつけることで共に墜落した。奇襲が成功すれば、あとは冷徹なイヴァナの部隊の少女たちが負けるはずがない。夜の闇の中で色とりどりに弾ける砲弾の火花を目に映しながら、イヴァナは敵将とともに国境付近に墜落した。
イヴァナも敵将も、墜落後も生きていた。敵将もまたイヴァナと同じ年頃の少女だった。名はマルタ。マルタは突然、イヴァナの装備を剥ぎ取った。それと同時にイヴァナの装備が爆発する。墜落した彼女を華々しく国葬するため、祖国は彼女に生きていてもらっては困るのだとマルタは告げる。それを知っているのは、マルタの姉もまた同じ目に遭ったから。
二人は手を結んで、彼女たちの国が滅ぼした第三国に残る廃墟の塔を目指す。廃墟の塔には、彼女たちがそこで生まれた痕跡が残っていた。両国の航空連隊の少女たちは才能を持って空を飛ぶために作られた姉妹たちだった。
彼女たちは夜を待つと、手を取り合って廃墟の塔から再び滑空する。祖国の塔を目指し、まだ夜に囚われている姉妹たちを救い出すために。そして両国の塔は彼女たちの手によって破壊され、戦争は中断を余儀なくされる。以来、両国の人々は夜空をよく眺めるようになった。そこには時々、星々の間を滑り落ちる魔女の姿が見えると聞いたので。
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内容に関するアピール
航空戦に憧れがあり、ぜひ挑戦してみたいと思いテーマに選びました。
エンジンの推進力で飛ぶより、風と重力で空を滑空する方がスピード感が出るような気がして、そのようなシーンを想像してみました。普通に書くと普通の戦争ものになってしまうので、ワルキューレのような少女たちの戦いを主軸に、戦いの様子を描いてみたいと思います。
文字数:156