梗 概
妙なる音は神とその使より
その神の生物創造方法は独特だった。生物がどのような体を持ち、どのように動くかを「書く」ことでつくる。だが、膨大な種類の生物をいちいち書いてはいられない。実際に「書く」のは神自身ではなく、「神」の手足となって動く「使」達だった。
一枚が1つの「しるし」に対応する、「使」の足ほどの大きさの「鍵」と呼ぶ板を並べた「連鍵」という道具を使う。それらを足で踏むことによって押して書くが、次に踏むべき鍵との間が離れていることもままある。その場合、跳ねて飛び移るか、不可能ならば、「書ける」ほど強く踏まないよう体重をかけずに、間の鍵の上を移動しなくてはならない。踏み間違えたり、余計な鍵を踏んでしまったりすると、「神」の意図したものとは異なる生物が出来て世界の均衡が崩れる事態が起こりかねない。「連鍵」は複数存在し、鍵の並び方も同じではあるが、それぞれに癖があり、「使」によって相性があった。跳ね、飛び、時には強く時には弱く、「神」の命じたとおりに鍵を踏むことは「使」達にとって義務ではあったが、楽しみともなっていった。
「使」は「神」の意思を受けて働く。その動きには僅かながら「神」のちからと、「使」の精気が含まれていた。生物が何千世代と続く間、「連鍵」はそれらを浴び続けていた。
「使」達は「連鍵」から、薄くはあるが思考のようなものを感じ始めていた。当初は意味もなく、ぼんやりとしていたが、時が立つほどにはっきりと意味を成してきた。
注意深く、体重をかけないように鍵と鍵との間を移動している時に
「楽しいの」
と話しかけられたり、二つ三つ並んだ鍵を不規則に速く踏んでいるときに
「大変そうなのに何でそんなことしているの」
と尋ねられるようになった。無視して続けても、「使」達の思惑や緊張などはいっさい構わずに、「連鍵」達は質問や感想を投げかけてくる。「連鍵」を使い始めた頃よりも間違いが増えた。「使」達は話し合い、一度分解して組み直す、との意見が出た。しかし、「神」と自分達「使」のちからや精気を内に溜めたものをうかつに分解すれば、何か起こらないとは限らない。自分達で処理できる問題ではなくなっている、と「使」達は結論を出した。「神」もまた昨今の生物の状態を不審に思っており、「連鍵」に係わる「使」達を集めて質した。
もとより「神」がつくり、自らはっきりとした思考をなすほどに「使」の精気を内側に持つのならば、「連鍵」は下級ではあるが既に「使」である。
「神」は結論を出し、下級の「使」である「連鍵」に自ら「書く」能力を与え、「連鍵」は神の意図を直接受けて生物を「書く」存在となった。しかし「連鍵」は、「神」の考えるところを間違いなく「書く」ことが出来るほどの「使」ではない。「連鍵」達を使っていた「使」達が「連鍵」の「書いた」ものが「神」の意図と異なっていないか確認するよう命じられた。
一部の「使」は、自分達がこれまで高めてきた、「連鍵」を可能な限り早く、間違いなく操る技を惜しんだ。そして、「使」の精気を溜めないようにした様々な材料で、踏み方の強弱や鍵の種類で違う音を出す機能のみを持つ「連鍵」を作った。操作の巧みさ、鳴らす音の心地良さ、美しさを競うことが、いつか「使」達の息抜きや楽しみとなっていった。
「音連鍵」を楽しむ「使」が確認し、手直しをした生物には、美しい音を発するものが多く出現するようになり、「神」もその程度であればよしとして、生物の音をくつろいで楽しんだ。
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内容に関するアピール
「スピード」や「アクション」は何もきったはったばかりではないだろう、と考えて思いついたのが楽器の演奏やタイピングでした。「連鍵」はイメージとしてはタイプライターです。
一度「叩かれたり乱暴に打たれたりして文句を言うタイプライター」を思いついたら後はするりと出てきました。「アクション」や「スピード」は「連鍵」を「使」が使うところで出したいと思います。今回も肩の力を抜いて楽しく考えられました。
文字数:197