梗 概
ソトカンダ騒乱
今世紀初の世界大戦は西東京が地面ごと半球形にくり抜かれて終結した。新宿も巻き込んだ異変からは電磁波も振動も観測されず、消失した質量の行先は杳として知れない。戦後、東京は目覚ましい復興を遂げたが、人々の格差は広がり生活圏の分離が進んだ。
清掃事務所に勤める田中トウ和は、アンドロイド亞5374號と共に廃棄物を回収している。田中は超積層構造体ソトカンダへ清掃車を走らせる。百万人が暮らす人工都市の一角が田中たちの担当だ。近づくほどに頭上の高架歩道は密になり、下道からは空が見えなくなる。ここには物資搬入のゲートとダストシュートから降ってくるゴミの集積所があるだけだ。
集積所前には戦災孤児と路上生活者が集う。ゲート脇に立つセンセイが群衆に道を開けるよう合図する。おかげでこの集積所は秩序が保たれている。田中は清掃車から脚を出し歩行形態へシフトする。集積所内で四本の作業腕を展開すると助手席の亞號が床に降り立つ。分別されていない廃棄物をセンサーで識別し仕分けるのが亞號の主な仕事だ。
作業の傍ら田中が次々と路上に放り投げる廃棄された食糧は列を成した人々に分配される。「そら、子供ら向けだ」田中は縫いぐるみや玩具の入っていた袋を放る。少しして男たちの怒声が上がった。老人が暴行されている。鎮圧を命じられた亞號は練達の体術で瞬く間に暴徒を捕縛した。老人が暴れ出したと男達は言う。足下に転がる玩具のジェリービーンズ自販機から、こぼれた一粒を拾うと子供に止められる。それを食べて暴れたのだ。亞號は分析結果にアクセスできない成分があると言う。識別可能だが情報が規制されていた。
不意に悲鳴が上がる。意識の無かった老人が起き上がり、ジェリービーンズを再び口にする。空中へ砂糖菓子をぶちまけた老人は、物質収支を無視して身の丈三メートルの巨人に変身した。「マンガかよ!」亞號に人々の護衛を命じ清掃車に乗り込む田中。作業腕を操り巨人と格闘するも腕を一つもぎ取られた。その時もう一人の巨人が最初の巨人を殴りつける。理性の残る眼差しからセンセイが正体と知れた。タッグを組み巨人を押していく。
人々が遠巻きに見守る中、ヒグマを凌ぐ体躯のドブネズミが乱入する。散乱したジェリービーンズを食べたのだ。巨人を敵と見なしたか空腹を満たす餌食ととらえたか。二体と一匹と一輌のバトルロイヤルは田中の清掃車とセンセイの勝利で終わった。小一時間でセンセイは元の姿に戻ったが、巨人とドブネズミの死体は目の前で消失した。
全てが亞5374號を通して事務所へ伝わっていたはずだが、田中には一週間の自宅待機が命じられその後騒乱の話題は禁句となった。隠し持っていたオレンジ色のジェリービーンズをしげしげと眺めていると、不意に質量を失った様に浮かび上がることがある。これは神の為すことか人の業か。引き出しの奥にしまい込み田中は仕事に打ち込むことにした。
文字数:1200
内容に関するアピール
泥臭い肉弾戦、本物の「異種」格闘技戦を書きたいと思いました。世界大戦を終わらせた異変と不思議な砂糖菓子にどのような関係があるのかは、実作でも匂わせる程度に留めたいと思います。異星人とか地底人の仕業です。きっと。
センセイは読書と哲学とプロレスを愛するあまり大学を留年し続けた青年の行き着いた姿です。まだ大人になりきれない主人公の田中と意気投合したいきさつなど回想させたいと思います。超人プロレスは少年の永遠の夢でありヒーローなのです。また、梗概ではあまり触れていませんが、亞5374號のスピーディーなアクションも丁寧に描きたいと思います。
超積層構造体ソトカンダにはAKBセンターというモニュメント的建築物があるのですが梗概では削りました。実作でも触れないと思います。
文字数:332