梗 概
インフォメーション・ファイアスターター
神奈川県横浜市中区山下町、通称カジノ特区。
カジノ誘致に成功した不夜城の一角が停電する。
男が情報端末を取り出し、起動しようとするが、うまく認証されない。
男が情報端末を取り出し、起動しようとするが、うまく認証されない。
個人情報認証の全てがエラーとなる。
男の背後から、一つの足音が迫る。
「日本に来れば”夜警”ウォッチャーの目が鈍るとでも。”情報加速”アクセラレーターは犯罪だと、知らなかったとは言いませんね?」
目の前に現れた少女の顔を、男は知らない。だが、男には確信があった。
「”悪魔”Demonめ!」
男は怯えを振り払うように叫ぶと、懐から拳銃を抜き、狙いを定めて引き金を引く。明らかに訓練された動きだった。
放たれた弾丸は少女へと一直線に奔り、少女の掲げた手のひらで、ぴたりと止まる。
「私がここにいたことはほんの偶然ですが、見逃す理由もありません」
その人差し指を男の心臓へと向け、「ばーん」というと、糸の切れた人形のように、男はその場に崩れ落ちた。
現象としてはそれだけだ。ただし、視神経まで情報体の手術を受けていた男の瞳には、銃弾から奪われたエネルギーが、その指先から解き放たれた瞬間をとらえていた。
男の端末を回収すると、少女は目を細める。
「どうやら、偶然というのは早計だったようです」
端末の画面には一人の女性の顔が写されていた。
マリア・イルミナ。数年前、米国を騒がせた活動家の顔写真だった。
マリアの護衛をし、横須賀基地まで送り届けるのが、真楠の今回の任務だ。
彼女は、情報社会になって以来最大の”情報発火能力者”インフォメーション・ファイアスターターだった。
ブラックホール内の情報を自在に熱量として取り出す理論の構築から十年、
今では情報が熱量、エントロピー、エネルギーとして知覚される技術が確立された情報社会が構築された。
能力者は単純に情報のハブとなるだけではない。
情報を知覚できる時代、その情報を熱量として扱い、エネルギーとして放出することで、人間は次代のエネルギー問題さえ解決しようとしていた。
そして、情報と熱量を自在に操作できるマクスウェルの悪魔の力をもつ真楠にとっても、最高の相棒だった。
彼女が米国に戻ることで、今のバランスが崩れることを恐れる勢力からの追手が二人を襲う。
追手の”能力者”ファイアスターターが、マリアのかつての旧友であることを知る。
旧友は、彼女が米国を去ったのちに、残された人々の苦悩を語る。なぜ今更、帰ってこようなどと思ったのか。
恐ろしくなった。とマリアは語る。
自分の言葉、存在がどこまでも大きくなっていくのを見て、自分がわからなくなってしまったと。
マリアの発言に、ふと真楠が気づく。
マリアの熱をエネルギーに変換して、その力を情報に再変換してマリアの旧友へ流し込む。
そうして、マリアの気持ちを、旧友は受け取ることができた。
無事に横須賀基地へとたどり着く。
マリアは真楠に、次はこっちに会いに来てよ。歓迎する。と別れの挨拶を告げる。
マリアは真楠に、次はこっちに会いに来てよ。歓迎する。と別れの挨拶を告げる。
文字数:1198
内容に関するアピール
お題がアクションということで、
ベタにSFな能力バトル物を書こうと思いました。
設定としては、
ブラックホールの熱力学からフレーバーを強引に引っ張ってきて、
ブラックホール内の情報を、表面のエントロピーから導く理論が現実に実装され、
それが一人一人の情報を熱量として可視化することができたらどうなるか。
そうしたら、今の社会はどんな風景に見えるのだろうか。
真楠の悪魔の力は、
マクスウェルの悪魔をイメージして、熱量と情報を自在に操作できるチート能力を。
ファイアスターターの力は、ちょっとファンタジーすぎるきらいがあるかもしれませんが、
情報が熱量と知覚できるようになったとき、知覚された熱量はどうなるのか。というところから。
現代の情報戦争を、見えるようになった世界観であれば、そのままバトル物にできるのではないか。
なお、横浜から横須賀への理由は特にない。
文字数:369