ミニアチュール

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梗 概

ミニアチュール

 建物から裸足で逃げ出す少女。数人の兵士が追いかける。つぎの瞬間、どこからか撃たれて倒れる兵士。少女は下敷きになり、動けない。何人かの兵士が飛び出してくる。次々と撃たれ、倒れる。ひとりが、こちらを指さす。その表情は憎悪に歪んでいる。
 ハッと目を覚ます、内藤。目のまえには上官タツオ。三十代にもなって語尾に「お」をつける、ウザいピーターパンのような上司だが、わるい人間ではない。
 部下として配属されている内藤は、冒頭のとおり、最近まで最前線で狙撃手をやっていた。退役を考えつつ、現在は沈静化している紛争地帯で、新たな「捜索」任務にあたっている。

 皇紀27年、世界は戦乱の巷にあった。
 西側諸国の中心国家、ヴィレッジ・ステイト・オブ・アメチャン(VSA)は、中心地ミナミで自由貿易を担うアベノ・トレード・センターに突っ込んだ気球の爆発をきっかけとして、「テロとの戦い」を宣言。ナゴヤスタン、北イクラ、TS(トヨテック・ステート)を中心とする、「ならずもの」中部東地域との戦争を開始する。
 開戦の理由となったのが、北イクラが保有するとされた「大量塗装ペンキ」。タツオたちは、その捜索任務にあたっている。
 大量塗装ペンキは、それを用いた文字はもちろん色そのものによって、指導者に都合のいい洗脳が行なわれる兵器である。自由意志を妨げる非人道的なものとして国際法で禁止されているが、中部東各国はそれを隠し持っている、という理由で侵攻は開始された。
 いま、その戦争の大義が、タツオたちの捜索にかかっていた。

 つぎに彼らが向かったのは、民間軍事会社のオフィス。
 そこではデビッドという男が武器や医薬品、ひそかに移植用臓器なども取り扱っているらしい。彼はいまいましそうに、タツオと内藤を迎えた。
 三人は幼馴染で、中学まではいわゆる「3バカトリオ」として親しかった。
 なかでも頭のいいデビッドは、海軍の上級学校から幹部候補生を経て幕僚本部付まで昇進したが、戦争の大義に疑問を感じて退役。現在は民間人の立場から、コネを利用した軍事会社で紛争にかかわっている。
 もちろんタツオたちの任務も理解しているが、いまはひどく迷惑そうだ。そもそも大量塗装ペンキなどない、という考えの持ち主である。

 小学校での立てこもり事件、千葉のアミューズメントパークで逮捕された北イクラ将軍のバカ息子など、世界ではさまざまな事件が起こっている。
 そのバカ息子とテロリストの人質交換が行われようとしている場所に、ひそかに潜伏するタツオたち。パンニ・ハム・ハサムニダ将軍が姿を現す。
 舞台を整えるのに一役買ったデビッド。彼は自分が利益を得ている戦争の終結を、じつはだれよりも望んでいた。そのため、目のまえの取引相手を殺害するほどに。
 タツオたちは、混乱する世界情勢の一部として、自らがどの歯車を担うかを選ぶべき瞬間に立たされた──。

文字数:1190

内容に関するアピール

 現在の世界情勢を、皇紀27年の日本列島という架空の世界線に投影しました。
 タツオ、内藤、デビッドという、幼馴染の3バカトリオを中心に、物語は展開します。
 それなりに幸せだった20年前と、あまりにも異なる立場で対峙することになった3人。
 かつての友情と、非情の世界が混淆します。

 紛争地帯が舞台ですので、アクションとスピード感には事欠きません。
 もっぱら熱血野郎のタツオが突撃し、狙撃手の内藤がバックアップします。
 彼らが捜索している「大量塗装ペンキ」から連想されるとおり、オチには『イカシトーン』というゲームがメタファーされます。互いの陣地を塗り合うゲームです。
 いろいろネタをほりこむ予定なので、元ネタを探す楽しみもあるかと思います。

 小さな日本に仮託した世界史のミニアチュール(細密画)になります。

文字数:352

課題提出者一覧