人類の全力運転

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梗 概

人類の全力運転

地球にも土星のような輪ができた。輪の正体は赤道に沿った十五の軌道エレベーターだ。その軌道エレベーターから順に水爆が射出されていく。目標は火星。火星に巣くった物体Xに人類は総攻撃をかけた。

 

百年前太陽系の端にあるものが観測された。巨大な群を形成しているソレは、人類が観測した直後、近くにあった冥王星に一気に群がると、星が真っ黄色になった。これによりそれらの色は黄色であることが分かった。二十年後それらが動くと冥王星は跡形もなく消えた。次に土星をのんだ。それらは以後物体Xと呼ばれる。

物体Xに太陽系の星は食べつくされることが予測された。人類はこの脅威に対処するため、人類のすべてのリソースをこの化け物と戦うことに注ぐことを決めた。これより、核実験や人体実験や人間のクローン作製が行われ始め、倫理はもはや価値を失い、なりふり構わない科学の進展の時代が始まった。

人口は百年で三百億までふくれあがった。その全てが優生主義的な発想に基づく遺伝子の近親交配を繰り返したサラブレッドであり、教育の徹底や電脳化などで人類のいわゆる知性の平均値は飛躍的に向上した。人体の機械化や人間への遺伝子操作もまた奨励され、操作した遺伝子をさらに交配させることも試された。結果人間は現在の姿を大きく離れ、手足が伸び皮膚が分厚くなり、生身のままでも十分間は宇宙空間で元気に動き回れるようになった。そして兵士タイプや学者タイプなどのタイプ別に人間を作り、疑似的な多様性を確保した。ひとりの人間の使用限度を四十年と定め、寿命が四十年でつきるように設定された。これらの裏で効率の悪いままの旧人類は死ぬことを迫られた。死んだ人間は溶かされて水素や炭素として回収された。

 

そしてついに物体Xは火星をのみ始めたのだった。

射出された水素爆弾が着弾する。つづいて金星爆弾着弾まであと十分。人類はこの作戦の一年前、金星の半分を吹き飛ばし、金星表面に取り付けた推進装置を吹かせて惑星軌道から金星を追い出し、火星に衝突するように仕向けたのだ。金星爆弾が着弾する。

そして四か月も前に地球から投げ出されていた最終兵器である人間が火星に到着する。

以前、群を離れた物体Xを捕まえて解体して分かったことがある。物体Xの大きさは縦約三メートル横約一メートルの直方体であり、表面は襞が何重にも折り重なっており非常に硬質だが、特定の周波数を直にあてると溶ける。そしてそれは遺伝子操作され現在の三倍の皮膚に伝わる心臓の鼓動の周波数と同じであった。武器の作成を考えたが、地球にはもう資源は少なく、人間の体をそのままぶつけてしまう方が効率が良いと判断し、対物体X用爆弾は三百億個その日のうちにできあがった。

そして特攻した。人間が裸で直方体の黄色いものにぶつかっていく。一週間の戦いで三百億の人間が死んだ。しかし百万人が生き残った。人類は生き延びた。

文字数:1183

内容に関するアピール

前半が人類百年のグロテスクな進歩を書き、後半が宇宙人との決戦になります。

人類という種が死を迫られたら、どこまでやるのかを見たいという気持ちで書きました。百年という時間の中で倫理などを無視し全力で科学力を発展させたらどうなってしまうのか、そしてどこか遠い宇宙から来た謎の物体との戦争がその成果を発表する場所になっています。

この話は究極の全体主義です。進化が複数の異なる価値を保持できるようになっていくことであるならば、これは未来の話ではありますが、進化でも何でもありません、生と死の極点に収斂していっただけでした。しかし生き延びました。それが良いのか分かりません。前提としてこの選択が物体Xに立ち向かうにはベストだったとしています。

文字数:315

課題提出者一覧