さよならエンペラー

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梗 概

さよならエンペラー

 22世紀、人類は太陽系内に生活圏を広げており、そこにはいわゆる『宇宙人』も共存していた。2030年に突如、異星人3種(ジェミ人・ヴァル人・スカルピオ人)を乗せた宇宙船が木星の衛星タイタンに不時着。人類史上初めての外的接触のあと、異星人たちは自分たちの技術を提供する代わりに、自分たちの太陽系内での一時居住を要求した。彼らの証言によると、母星近くの惑星間での戦争により、疎開を余儀なくされたという。彼ら先発隊はもともと太陽系に来る予定はなく、エンジントラブルで不時着しただけらしい。地球側は、次の救助船が来るまでの一時的な居住として、条約を取りつける。
 それから数十年。技術交流も手伝って、地球各国の陣取り合戦が進み、太陽系全体に人類は散らばっていた。初めは一時的な居住と発言していた異星人たちも、母星からの第2第3の移民船を迎え入れ、開拓を進めた。異星人の人口はふくれ上がり、民間と異星人との違法な交流が進み、国家への信頼は揺らいでいた。

2115年、条約の期限が迫ると、ジェミ人の『本国』の代表団がタイタンに来るとの報が入った。本格的な交渉が始まりそうになるなか、彼らは地球側に要望をつきつける。『地球側の代表、”王”=”神”を連れてこい』と。それは選挙で選ばれた国の代表という意味ではなく、歴史や神秘性を重んじるジェミ人ならではの外交要求だった。拒否すれば、科学力に劣る地球側に勝ち目はない。しかし、すでに地球では宇宙開拓により各国の君主の尊厳は失われ、天皇制も君主制も衰退していた。地球側は、各国の君主の子孫を宇宙船で輸送することを決定する。

 火星生まれで運び屋のコウノは、ジェミ人の相棒イェルモ(男)とともに、惑星間の運送を生業としていた。ある日ふたりは、地球の『神』であるミコトを地球から木星まで送り届けることに。報道されている君主専用の宇宙船はブラフであった。
 1ヶ月間、見た目は子どもであるミコトと旅をする2人。途中、ミコトが地球の歴史と君主をすべて学習したアンドロイドであることがわかる。そんなものが王や神になれるわけがないと笑うコウノだったが、ミコトがもつ神秘性に徐々に言葉を失う。現在、地球の国王や君主はほぼ名前だけの存在となっており、ジェミ人を納得させるにはミコトが必要であるという。コウノは地球への愛着もないに等しかったが、太陽系の恒久的平和を願うミコトに、なぜか懐かしさを感じてしまう。
 ミコトは、自分自身がジェミ人の人質になることを知っていた。ジェミ人はおそらく、地球と人類の歴史を知り、侵略すべきかどうか判断するだろうとミコトは言う。ミコトはそのメッセンジャーになろうとしていた。平和のためなら命を捨ててもよいと言うミコトを、コウノはただ送り届けるしかなかった。

文字数:1146

内容に関するアピール

100年後の世界、と考えて、100年縛りがありつつもどこまで遠くに行けるかを考えました。本当は太陽系の外まで行きたかったですね。

去年の講座でのテーマ、『天皇制、元号に関するSFを書きなさい』で、「全宇宙のなかで、(そのときには古臭くなってそうな)、天皇や国王を選ぼうとしたらどうなるだろう」というのがアイデアのスタートでした。本当はヘンテコな宇宙人たちがギャイギャイ騒いで君主について話しているところを想像していましたが、今回はそうはならなさそうです。
 現代、君主(国王、天皇)がいる国は28カ国と少数派です。そのなかでもヨーロッパとアジアでは君主の意味合いが違いますし、君主が世襲制でもない国もあります。『君主がいると国が滅びる』と抵抗感のある国もあります。ただ人類が宇宙に出て行くほど、『重し』やアイデンティティとしての君主は必要なのではないかな、と思います。コウノやイェルモも、母星(地球)のことはほとんど知らない世代という設定で、ミコトを見てどう思うかが書けたらと思います。

 

参考文献:『現代世界の陛下たち-デモクラシーと王室・皇室』 水島治郎 ミネルヴァ書房

文字数:482

課題提出者一覧